09-10.サルヴァ女王、王配と話す
戴冠式と祝賀会が終わり、トラホルンに戻るシーリンを見送ってから、サルヴァは自分のために用意された寝室へ戻り平服に着替えた。
平服とは言っても、何かあれば謁見の間に出られる程度には整えられた立派な造りのドレスであったが。
サルヴァは椅子に座ってふう、とため息をついた。
父のギスリムに似て催し物などは嫌いではないサルヴァだったが、さすがにちょっと疲れていた。
やらなくてはならない政務は山のようにあったが、今日くらいはゆっくりしたいものだとサルヴァは思った。
部屋の戸がノックされた。
「誰だ? 入るがいい」
「俺です。ザッキーです。入りますよ」
飲み物と軽食を持った盆を手に、岡崎が部屋に入ってきた。
「あらザッキー。どうしたの、そんなものを持って。そういうものは小姓に運ばせなさい」
「あ、いや。ちょうど部屋の前に来たら侍女がいたんでもらってきたんだが、まずかったですか?」
「あなたの顔が怖いから言うことを聞いたのでしょうけれど、下々の者にも役割というものがあります。上に立つものがそれをうばってしまうのは良くないこと」
「あー……。ごめんなさい、気を付けます」
「それに、あなたは私の夫。国政の上では我が臣下ということになりますけれど、二人きりの場でもいつまでもそのように打ち解けない態度! 私のことを妻とは思っていないのですか?」
「えええっ!? いや、あなたはずっと、俺の大切な姫君だと思ってますけど……」
「あなたが私を宝物のように大切にしてくれていることは分かるけど、もっとこう、ないのですか? 私を熱烈に求めるような態度とかっ!」
男女の仲については岡崎はあきれるほどに奥手で、紳士的というよりはいくじなしと言ってよいくらいだとサルヴァは思っている。
子供子供している自分の容姿が気に入らないのではないかと少し悩んだこともあるのだが、サルヴァがいたずらで体を触ったり手を握ったりすれば赤面するし、岡崎の方でもまんざらではないようなのである。
「王権を確固たるものにするためにも、早く子をなさなければならないと言うのに! いつまでもそんなことでは困ります!」
「そうは言われても……」
「もしかしてザッキー、あなた、その年齢まで男女の営みをした経験がないのですか!?」
薄々疑ってはいたのだったが、サルヴァは思い切って岡崎に尋ねてみた。
「えええっ!? な、な、な……ない、けど」
「やっぱり」
サルヴァは思わず苦笑いをした。
「私もありませんけれど、房中術については王宮の侍女たちに手ほどきを受けています。退屈させない自信はありますわよ?」
「わーっ! なんてことをっ!」
サルヴァは部屋の戸に鍵をかけてから、岡崎のもとに戻ってその大きな体に抱き着いた。
「これから試してみませんこと? お互いに初めての経験を」
岡崎は棒でできた人形のように体を硬直させていたが、顔を真っ赤にしてうなずいた。
サルヴァは夫の手を引いてベッドに誘った。