09-08.サルヴァ女王、戴冠する
バルゴサの首都ヌーン・バルグでは、その日新女王サルヴァ・タイデルの戴冠式が行われた。
王女時代はトラホルン王家ハールバルムの姓を名乗っていたサルヴァだったが、祖母の血筋を強調するためにタイデル王家の末裔として姓を改めたのだった。
荘厳で重たい毛皮の衣装を身にまとい、胸元には竜玉石の玉璽を入れた皮袋を下げて、サルヴァは王配の岡崎と共に玉座の前に歩いて行った。
そこで、バルゴサの重鎮である大臣の手から王冠を頭に載せられ、サルヴァは玉座に座った。右手には王家に伝わる秘宝の一つである、竜玉石のはめ込まれた王錫を携えていた。
「妾の戴冠式に集まってくれた列席者たち、みな大儀である。妾がこれよりバルゴサ王国を統治する女王サルヴァ・タイデルである! まずは先の戦争で尊い犠牲となった兵士たちに哀悼の念を表したい!」
父親譲りのよく通る美声でサルヴァは言った。
15歳の若き女王は、いっさいの物怖じをすることなく、挑むような態度をとることもなく、生まれながらの王者としてそこに自然に君臨していた。
「妾が目指す理想のバルゴサは、民草が飢えることのない安寧の国家である。長年確執のあったトラホルンは我が姉シーリンが統治する国となった。我らバルゴサとトラホルンとは、今後末永く友邦としてともに栄えていくことになろう。先の戦争のような悲劇は二度と繰り返すまいとここに誓おう」
会場に列席していたバルゴサ人の多くが遠慮がちにざわめいた。中には、年の若い女の女王に取り入って、うまく操ってやろうと考えるような輩もいたことだろう。
しかし、サルヴァの態度や物腰はとうてい十代半ばの女子とは思えない落ち着きと貫録を備えていた。
同時に、この新女王ならばアガシャー王時代にあった閉塞感を打ち破り、バルゴサに新たな未来をもたらしてくれるのではないか? という期待も抱かせるに十分であった。
「妾はまだ15で女の身。色々と至らない面もあるだろうと思うが、何か不満や意見のあるものがあれば遠慮なく寄せて欲しい。忠告は全て受け入れよう。若輩者ゆえにすぐには実行できない、あるいは納得できないこともあるかもしれぬが、寄せられた意見が気に入らないからと言って忠告してくれたものを邪険にはせぬ」
サルヴァは会場を見回してそう言った。
気性が荒くて独断的と知られていたアガシャー王とは違う、というアピールのつもりであった。
バルゴサの人々は驚きに再びざわついた。