09-07.元特務隊長、知らせを受ける
森本モトイ前大統領の葬儀と前後して、バルゴサでは後継者問題にサルヴァ派が勝利をし、正式にサルヴァがバルゴサの女王と認められたという。
三か月後に戴冠式が行われるという知らせがイズモにも届き、木下ハジメ新日本共和国大統領もその儀に招かれた。
「今年は大きな出来事が続きますねえ」
「本当にな。戦争にギスリムさんの死。それからシーリン女王の誕生に、モトイのじいさんの死。次はサルヴァ女王の誕生か」
「もう一つ大きな出来事があるんですけどね」
「なんだよ?」
「今はまだ教えませーん」
「ああん?」
ハジメは大統領らしからぬガラの悪い態度で疑念を表明した。
が、どうせ大したことではないだろうと思ってそれ以上追求はしなかった。
「えー、なんだよーって聞いてくれないんですか?」
「えー、なんだよ?」
「おめでとうございます! ハジメちゃん、パパになります!」
「まじかっ!?」
ハジメはまずぎょっとした。それから、まだ実感はわかないながら嬉しいような気がしてきた。
「赤ん坊がいるのかっ!? 何か月だ?」
「んー、もうすぐ3か月ですかね。最初は生理不順かと思っていたんですが、もう間違いないですねぇ」
「どっちだ!? 男の子か、女の子か!?」
「そんなの、わかるわけないじゃないですかぁ」
カナデはゲラゲラと笑った。
「生まれてからのお楽しみですよっ! まあ、カナデちゃんの感じでは男の子だとにらんでいますけどっ」
「どっちでもいいけどな。まあ、女の子だとどうやって遊んでやったらいいのかよく分かんねえけど」
「高い高いとか、お馬さんとか、おままごととかじゃないですか」
「おままごと……。おままごとねえ」
自分が小さな女の子と一緒におままごとをして遊んでやっている図を想像して、ハジメはちょっとげんなりした。
「タモツやサエちゃんには見られたくねえな」
「いずれにしても、大統領夫人ご懐妊となったら国民の皆さんからお祝いしてもらえそうです。ご祝儀で国民一人につき銀貨1枚ずつくらいいただけませんかねえ」
「どんな大統領夫人だよ。考えることががめついな」
「えー。現世に居たとき考えたりしませんでしたぁ? 国民一人あたりから1円寄付してもらったら1億円集まるのになあとか」
「発想が乞食のそれだぞ。俺はクラウドなんとかいうやつとか、ああいうのは好きじゃない」
「あー、それはタモッちゃんから聞いたことがあります。インターネットっていうのを通じて寄付? 出資? を募るんですよね。カナデちゃんがいたときにあったらやってみたかったのにー」
カナデは笑って言った。