09-06.元特務隊長、大統領と話す3
「なるほど」
森本モトイは愉快そうに笑った。
「自衛隊は軍隊でもなく公務員でもない、別の新しい何か、ですか。そのような形で現状を肯定する考えはしたことがなかったですよ」
「確かに色々矛盾だらけだけどよ、それでも、俺は自衛隊を無理に軍隊化することはねえんじゃねえかって思ってる……って、なんだよ、ここで俺たちが現実世界の自衛隊について議論を戦わせたところで、元の世界に帰れるわけじゃねえんだけどな」
ハジメはガラにもなく熱く語ってしまったようで、ちょっとばつが悪い思いをしながらそう言った。
「まあ、確かにそうですな。それにしても、あなたとは最後まで話が嚙み合いませんでした。死にかけの老人に話を合わせてくれることもしないとは実にひどい人だ」
「だってよ、そりゃあ、かえって失礼ってもんだろう?」
「ハハハハ。確かに!」
森本モトイは楽しげに笑って見せた。だが、直後に胃のあたりを抑えて苦しそうな顔をした。
「森本さん! 痛むか? 医官を呼んでくるぞ」
「いいえ、その必要はありません」
森本は額にわずかに脂汗をにじませながら首を振った。
「刈谷元自衛官が私の体内に作り出した魔晶石というもの、あれを戦車の動力にできないかとギスリム国王に提案したのは私です。ギスリム国王は魔晶石研究家のライラスという人を探り当て、イルマという少女に命じて接触させた。魔導戦車によって異世界自衛隊はこの世界において無類の戦闘力を保持することになる。それが大地を駆け巡るさまをこの目で見てみたかったですが、かないませんでしたな」
「ギスリム国王もあんたも、色々策をめぐらせるのが好きだよなあ……」
ハジメはあきれたように言った。
「そういうの、どうかと思うぜ」
「性分だから仕方がないのですよ」
森本モトイは、痛みが少し引いたのか弱弱しく笑って見せた。
「今後はその戦闘力をあなたが大統領として運用し、いずれは沖沢さんが自衛隊のトップに君臨することになるでしょうな。あなたたちの理念や理想が後代まで継承されるかどうか、私は草葉の陰で見守るとしましょうか」
「ああ、そうしてくれ。世界に平和をもたらす組織として、専守防衛の理念は守っていきたいと俺は考えている」
ハジメは言った。
森本モトイは静かに目を閉じて、そっとうなずいた。
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それから10日ほどが経過したのち、森本モトイの容体は急変しその晩のうちに大統領は亡くなった。
イズモで執り行われた国葬にはハジメ、カナデ、タモツも参加し、シーリン女王の名代としてロトム王配が参列した。
そして、第3代共和国大統領として、木下ハジメが大統領職を引き継ぐことになった。