09-05.元特務隊長、大統領と話す2
「こたびの戦争の詳細を関係者から直接聞くのは初めてですな」
森本モトイは静かに言った。
「実に後味の悪い戦いだったよ。宗教洗脳なのか何かのクスリでも決めてるのか、隊列を組んだ人々が木偶人形みたいに死を恐れずに、こっちに向かって行進してくるんだ。こっちも相手が怖いからただ撃ち殺す。俺たちは戦いの後でその屍の処理だってやったんだ」
ハジメは熱を込めて言った。
「たまたま俺は戦場で指揮官として戦ったが、それを盾にとってあんたに威張るつもりはねえ。だけど、自分自身は安全なところにいて戦争をけしかけたり、それを何かいいことのように言うんだったら、俺はそれを真っ向から否定するぜ」
「戦前の日本は軍部の主導によって戦争に突入した、国民は皆嫌がっていた、などとまことしやかに言われてきましたが、私はこれを間違っていると考えています。戦前の日本国民はおおむね戦勝バブルを期待して戦争というものを他人事のように考えながら、その果実には期待を寄せていた。戦争に反対する気持ちが大きくなったのは、ことが自分の身に降りかかるようになってからでしょう」
ハジメの話に直接答えずに、森本モトイは静かに言った。
「戦後はGHQによる洗脳や、朝日新聞の転向などによって軍部はいわば生贄となった。すべて軍隊が悪かった、一般の日本国民は何も悪くなかったと」
「……」
何の話だ、と思いつつハジメは口をさしはさむことはしなかった。
「私は日本を<戦争をする国>にしたかったのではないのです。<戦争をできる国>にしたかった。政治の最終手段として戦争という選択肢があり得る国。自分たちで自分たちの国を守り、必要とあれば先制攻撃もできる国。私が考えるマトモな国、まともな軍隊とはそういうものでした」
「憲法改正、自衛隊の軍隊化ってやつか」
「そうです。軍法会議をもうけ、シビリアンコントロールのもとで厳しく運用し、国民が国を守る軍人を尊敬し、軍務につく人々が自分の仕事に誇りを持てる、ごくごく普通の国にしたかった。ただそれだけなのです」
「俺はあんたやタモツみたいなインテリじゃねえからよくわかってねえかもしれねえけどよ……」
ハジメはしばらく考えてから、言った。
「自衛隊を出来損ないの軍隊みたいに言う話も、俺は納得できねえ。自衛隊っていうのはさあ、人類が初めて到達したまったく新しい何かなんじゃねえのかな。自衛隊は公務員なのか軍隊なのかっていう議論があるみたいだけど、そのどちらでもあり、どちらでもないんじゃねえか」
木下ハジメは静かにそう言った。