09-04.元特務隊長、大統領と話す
「これは木下夫妻。遠路はるばるお越しいただいてかたじけない」
記憶にあるよりだいぶやつれてはいたが、森本大統領は機嫌良さそうに病室でハジメとカナデを迎えた。
「カナデさんは相変わらずお綺麗ですな」
「森本さんもとってもダンディですよ!」
カナデはにこやかに言った。
「やつれて少しは色気が出ましたかな? 枯れ専女子という方々にモテてしまいますか」
森本はハハハと笑って見せた。
早くから転生しているカナデは<枯れ専>が何かわからなかったようだが、ハジメはこの場で説明してやることはしなかった。
「大丈夫かい森本さん、だいぶ痛むのかい?」
「痛いですな。もうここにある痛み止めでは効きません。あとはモルヒネでも打ってもらうしかないでしょうが、そんな貴重なものを私に使ってほしくはない。まあ、我慢しますよ」
「そうか。何と言ったらいいか……」
「カナデさん、ちょっとだけご主人と二人きりにさせていただけませんか」
森本はカナデを見て静かに言った。
「えー。カナデちゃんのけものですかあ?」
カナデはとりあえずふてくされて見せたが、すぐに真顔になり、
「わかりました。のちほどまたお会いします」
と言って、そっと病室を出て言った。
「話があるって聞いたけど、大統領権限の委譲についてのことかい?」
「いいえ。ごく個人的な恨み言についてですよ」
「え? 恨み言?」
ハジメは特に森本から恨まれる覚えがなかったのでとまどった。
「あなたが大統領時代に、神風特攻隊についての話になったことを覚えておいででしょうか? あの時あなたは特攻隊を強く否定なされた。私はあれがどうしても納得いかなかったのです」
「別に特攻隊として死んでいった人たちを否定したり、侮辱した覚えはねえよ」
ハジメは少し考えて思い当たったので、そう言い返した。
「俺が嫌いなのは、そう言った人たちを生んだシステムの方だ。国土や人々を守るために命をなげうった人たちを馬鹿にしているわけじゃねえ」
森本モトイは先を促すように、黙ってハジメの顔を見つめていた。
「自爆攻撃なんてどう考えてもまともじゃねえし、誰もが納得づくでその任務に就いたわけじゃねえだろう。出撃の時に覚せい剤を決めて突撃した隊員だっているって聞いてる。そういうのを美化して賛美するのは、俺は間違っていると思うけどな」
ハジメはつづけた。
「今回の戦争で、俺の率いる部隊はバルゴサの民兵を虐殺した。こっちの被害はゼロだったんだから、戦争というよりこれはほとんど一方的な虐殺だったよ。ギスリム国王の計略でアガシャー王を暗殺できていなかったら、もっと多くの民兵を殺さなければならなかった」