09-03.元特務隊長、イズモへ行く
ハジメはその翌日から新日本共和国の首都であるイズモへ出発することを決めた。
タモツも森本とは縁があったが、ハジメほどつながりが深かったわけではないので同行は遠慮した。シーリン新女王の戴冠式に招かれていることもあったし、魔晶石駆動の戦車開発が急務だったからだ。
カナデはハジメと共にイズモへ行きたいと願い出たので、タモツがこれを許可して有給休暇を与えてくれた。
「俺の不在間に戴冠式が行われることになるが、俺は参加できないことになった。副連隊長に俺の代理として出てもらうわけにはいかねえかな?」
「それよりは、祝電のようなお祝いのお手紙を出されるのはいかがですか? 私がボルハン王宮までお届けしますが」
「俺、そういう文面を書くの苦手なんだよ。悪いけど持田、お前代書してくれ。俺はサインだけするから」
「了解しました」
「カナデ、明日の朝一番にカリザトの営門前で合流だ。馬はあらかじめ馬屋に言って調達しておけ」
「あいあいさー、まいだーりん」
カナデは調子よく言った。
「だーりん言うな」
ハジメは嫌がって顔をしかめた
「タモツ、シーリン新女王と、あとはサルヴァ姫にあったらよろしくな」
「ああ、うん。事情は訊かれたらこっそり伝えてもいいのかな」
「構わんだろう。今はまだ公にしてもらったら困るが、じいさんの病気が進行しているならいずれは分かることだしな」
ハジメはしんみりした気持ちで言った。
こうして木下ハジメは翌朝に、妻のカナデを伴って西へと旅立った。
馬を走らせて駐屯地を結ぶルートを通り、トラザム駐屯地付近を経由してイェルベまで北上し、そこで馬を馬屋に預けて船で大河を渡った。もう何度となく通ってきたいつもの旅路であった。
河を渡るとすぐにイムルダール駐屯地と、いまだに建設途上にある新日本共和国の首都イズモが見えてきた。
「第5普通科連隊長の木下1佐だ。森本モトイ大統領はどちらにおられる?」
ハジメは駐屯地の警衛についている隊員に確認した。
「はいっ。大統領は駐屯地医務室にて療養されているとうかがっておりますっ!」
3曹の階級章を付けた若い隊員が緊張した面持ちでハキハキと答えた。
「わかった。ありがとう」
勝手知ったるイムルダール駐屯地である。医務室の場所は確認しなくても記憶にあった。特務隊時代に何度か軽症でお世話になったことがある。
医務室の建物はハジメの記憶にあったよりも大きくなっていた。どうも増築されたらしかった。
ハジメとカナデは駐屯地医務室に入っていった。