08-17.元連隊長、サルヴァ姫と話す
シーリン女王はロトムに手を引かれて、にこやかに会場に登場した。
そして、女王護衛官の冴子を後ろに従え、会場の全体を回って歩いた。
会場の各所に設置されたテーブルの上に木皿に乗せられた料理が次々と運び込まれ、人々は銀製のフォーク、ナイフ、スプーンを使ってそれらの料理にありついていた。
女王が近くを通ると皆それぞれに祝いの言葉を述べ、今日の日のシーリンの美しさをほめたたえた。
18になったばかりのシーリン女王はその身にみずみずしい若さと美しさをたたえており、健康的な褐色の肌は白のドレスに良く映えた。
会場の隅っこから女王のほうをぼんやり見ていると、こちらに近づいてくる人影があった。
先ほどの侍女が飲み物のお代わりを持ってきてくれたのかと一瞬思ったが、相手は女王の妹のサルヴァ姫であった。
こちらも次期バルゴサの女王になろうという人物なのだが、どういうわけか護衛も侍女も連れずにふらっとこちらに歩いてきた。
「こんにちはタモツ。あなたが人を寄せ付けずにこちらにいると耳にして来てみましたのよ」
「これはサルヴァ王女。お気遣いいただきましてありがとうございます」
「冴子からあなたのことはよく聞いていました。冴子が王宮に来てからお姉さまは以前よりずいぶんと変わりましたわ。冴子にはとても感謝していますの」
「それなら良かったです。彼女も仕えるべき主君に巡り合えたということでしょう。わたしとしてもうれしく思います」
「ところであなたたち、結婚はいつになさいますの?」
タモツはちょうどグラスの果汁に口をつけたところだったので、思わずぶっと吹き出してしまうところだった。
「あ、いや、まだそういう話は何も……」
「私がザッキーと結婚を決めたのは今のあなたと同じくらいの歳でしたし、冴子はもう33になるというではないですか。あなたたちがいた別世界ではどうだったか知りませんが、トラホルンの基準ではもう行き遅れも良いところです。早くめとってあげなさい!」
今年で15歳のサルヴァ姫は、まるで親戚のおばさんみたいな口ぶりでタモツを責め立てた。
「あ、いや、そのー……」
「まさかとは思いますが、他に気になる女がいるとか、もっと良い女がいるのではないかと思って冴子を捨てるつもりではないでしょうね?」
「あ、いいえ。決してそのようなことは……」
タモツはたじたじになってしまった。それと同時に、シーリン女王だけではなくサルヴァ姫にも冴子がとても好かれているのだということが分かって、なんだかとても嬉しかった。