08-16.元連隊長、列席する
トラホルン王国の首都ボルハンでは王宮の謁見の間で戴冠式が行われた。
タモツも亡きギスリム国王に縁のあった人間として式場に招かれており、妹サルヴァ姫の手より戴冠するシーリン女王の姿を間近で見ることができた。
同時に右隣に控えているロトムは王の配偶者、すなわち王配となった。女王警護官となった戸田冴子は左隣に控えている。
タモツが王宮にやってきた目的はもちろん戴冠式に参列するためであったが、儀礼が終わった後に謁見を賜って女王に願い出たいことがあったからである。
それはヴィーツとイルマの処遇についての話であった。
壮麗な戴冠式が無事に終了すると、列席者は散開し、その後は大広間での祝賀会に移行した。
冴子と話せる時間が取れるかとも思ったのだが、女王が着替える間は特に冴子が身辺を警護しなくてはならないようで、そのような機会は訪れなかった。
タモツは少し寂しく感じた。
立食形式のパーティとなった祝賀会では、女王が登場するまでの間、アルコール度数の軽い果物酒や軽くつまめる食べ物がふるまわれていた。集まった人々は会場内でいくつものグループを作り、それぞれに歓談をしている。
「よろしければ果汁をお持ちいたしましょうか? <魔物殺しのオキザワ>様」
特に話したい相手もなく会場の隅っこでぽつんとしていたタモツに、侍女の一人が気を利かせてたずねてきた。
「お気遣いありがとう。それではいただこうかな」
会場の列席者の中には転移からの転生者であるタモツに興味を示して近づきになろうという者もいるにはいたのだが、根掘り葉掘り聞かれることを嫌ってタモツが塩対応をしていたら、そのうち誰も特に話しかけてこなくなった。
いずれ階級を高めて異世界自衛隊のトップに君臨する可能性を考えたら、否応なく政治的な問題に巻き込まれたり、トラホルンの上流階級の人たちと近づきにならなくてはならないのかもしれなかったが、今のところそんなことをそつなくこなすような余裕はタモツには無かった。
やがて司会者の大臣が女王の登場を告げ、会場はざわついた。2階に続く階段の上からシーリン女王とロトム王配が並んで登場し、その後ろに影のように付き従う冴子の姿が現れた。
会場の人々は盛大な拍手をもって女王と王配を迎えた。この祝賀会は王位継承の祝いであるとともに、シーリン女王とロトム王配の結婚披露宴も兼ねていた。
戴冠式での荘厳な毛皮の衣装から、絹で出来た白のドレスに着替えたシーリン女王はとても美しく見えた。
同じように白の礼服に身を包んだロトムに手を引かれ、一段ずつゆっくりとシーリン女王は階段を降りてきた。