08-15.元連隊長、忙しく過ごす
それからのタモツはひときわ多忙であった。
亡きギスリム国王が残した宿題である魔導戦車の開発を推し進めるにあたって、魔晶石の改良がまずは課題であった。
旧式で軽量小型の61式戦車に対して、タモツが現世にいた時代の主力であった90式戦車は動かすのにさらにパワーを要求した。
しかしながら、タモツが作ることのできる魔晶石は今までの手法ではすでに限界であった。
タモツはその限界値を探るために極限まで魔素を注入し、一度魔素融解を引き起こしていた。実験のため必要性に駆られて行ったことではあったが、それまで魔晶石に込めてきた大量の魔素が一瞬にして高次元に散っていくのを見て、タモツは脱力した。
「賭け事に一か月の給料を全部はたいて負けたらこんな気持ちかなあ……」
賭け事は一切やらないタモツであったが、そんな風に思ってがっかりした気分になった。
とはいえ、これでどこが限界なのかを見極めることはできた。さすがに限界ギリギリまでは攻めないとして、この95%くらいを目安として次回以降作成していけばいいだろう。
魔晶石作成でくたくたになったところに、王命によりトラホルンから派遣されている四人の白魔導士たちがタモツの身体に新たな魔素を注入した。
「あ、どうもありがとう。いつもお世話になっています」
「我々が直接お手伝いできればいいのですがね」
派遣された白魔導士の長である中級魔導士が気の毒そうにそう言った。
タモツは魔力を取り戻し、新たな魔晶石の生成に取り掛かった。疲労の度合いが強い時は魔晶石の融合は行わないようにして、比較的神経を使わない魔晶石の生成だけを連続して行うようにしていた。
タモツやイルマは几帳面な性格を反映してか、生成される魔晶石の大きさや質は粒ぞろいだった。
一方で、むらっけの強いヴィーツは毎回のように生成される魔晶石の質量が安定しなかった。
「そういえばイルマとヴィーツは元気にしているのかなあ」
イルマは古文書管理官としてカディールの魔導博物館に勤めたということだった。ヴィーツは帝国魔導軍の技術士官になったと聞いている。二人ともカディールの中枢にアクセスできる立場に潜り込んだということになる。
「イルマはさておき、ヴィーツは色々大丈夫なのかなあ……?」
ヴィーツ本人の短気で粗野な性格のこともあるが、カディールの軍人が実はトラホルンから送り込まれたスパイでしたなんてことが知れたら命が危ないのではないだろうか。
まあ、今はそんなことを気にしていても仕方がない。仕事仕事!
タモツは再び魔晶石の生成に取り掛かった。