08-12.元連隊長、カディッサへ跳ぶ
61戦車解体ののち、魔導実験小隊では新たな実験材料としての90式戦車の搬入作業が行われていた。
カリザトの周囲に気まぐれで転送されてきた戦車の中の一台を、今度は外装を解体せずに魔晶石駆動に改造するのである。
搬入方法は極めて原始的で、古代エジプトでピラミッド建造のための巨石を移動させたときに使われたと言われる、コロを利用した手法である。
コロというのはいくつもの丸太を並べ、その上をベルトコンベアー式に転がして移動させる、その丸太を意味している。戦車が少し移動したら、後ろのコロを前に運び、またその上に戦車を移動させるのだ。
戦車をコロの上にのせる初期作業においては、トラホルンから派遣されてきた白魔導士たちによって浮遊の魔導を利用する。
先の戦争においてこけおどしのために丘の上に配置された三台の90式戦車も、同様の手法で移動されていた。結局それらは特に役立つことなく、油を塗った皮製のカバーをかけられて今も丘の上に残置されていたのだったが。
その作業が行われた日、タモツは早退を申請した。
夕刻からカディールの首都カディッサに跳んで、錬金術師ライラスと破魔体質のアストランに会うためであった。
タモツはカリザト駐屯地を出て、駐屯地の裏手に回り、さび付いた74式戦車の陰に隠れて魔導の眼を使った。
転送先となるカディッサ付近を偵察し、周囲に人がいないことを確認した。人に見られてしまうのも避けたかったが、何より転送先に人や何かの物体が存在した場合には、タモツの身体がそれらと融合して死に至る危険性があった。
タモツは転送門の術式を行い、空間移動のゲートを開いて中にくぐった。身体がゆがむような気持ちの悪い感覚があったあと、一瞬ののちにタモツはカディッサ郊外の人気のない場所に転送されていた。
それから、タモツはなつかしいカディッサの街並みを眺めながら魔導学院へと歩き、錬金術師ライラスを訪ねた。
トラホルンに帰った卒業生が訪ねてきたということで、タモツを知る門番には非常に驚かれた。もちろん転送門の術式を使えることは秘密にしてあるので、馬車で3日がかりで訪ねてきたということにしておいた。
「そう言えば知っているか? ライラス先生はトラホルンからの誘いを受けて、学院の講師をやめてしまうらしいぞ」
「え? ああ、そ、そうなんですか……」
自分がそのスカウトをかけた張本人だとも言いづらく、タモツは気さくな門番の中年男性に向かって曖昧に答えた。