08-11.元連隊長、念話を飛ばす4
(そうか。故国トラホルンとタモツを信じることにするよ。僕はその自衛隊という組織については判断できないけれども)
錬金術師ライラスは念を送ってきた。
(それで話は戻るけど、発見した古代遺跡を復活させるためにアストランの力が必要なのかい?)
(それと、古代イムル語などについての先生の知識もですね)
タモツは返した。
ドラゴン飯店の店内に残したままのカナデのことが少し気になったが、ライラスとの念話は重要な話だった。
タモツの姿は、料理店の店先でただぼーっと考え事をしている異様な子供に見えるのだろう。
大通りを行く人達の中には、ちらちらとタモツのほうを見てくる人もあった。
(どうも、選ばれた人間だけしか中に通さないための装置のようなものが仕掛けられているようで、古代語で声が聞こえてきて見えない壁で前をふさがれてしまうみたいなんです)
(へえ!? ということは古代イムル王国時代からの魔導の装置が今でも完全な状態で機能している可能性が高いわけだな!)
ライラスは興奮したようだった。
(アストランの力を使ってその、侵入者を阻む装置を封じて内部に入り、先生の知識に頼って浮遊城を再び空に浮かばせる。そんなことができないかと考えていたことはありました。ただ、転送門を使ってアストランを迎えに行って遺跡まで移動するにしても、彼の破魔体質が転送門を破壊してしまうなら現実的ではないなと思って諦めていたのです)
(なるほど。カディールからトラホルンに入り、新日本共和国からさらに秘境を探検して……となると、さすがに僕でもしり込みするな)
(ですよね。ですけれど、破魔の力を自分の意志でコントロールできるというなら話は別です。二人に協力してもらえるならですが)
(僕に関しては全く問題ないよ。古代遺跡を直接研究できるなんて本当に夢のような話だ。だが、アストランにとってはどうかな)
(はい。彼はカディールとバルゴサの血を引いていますが、心はカディール人なのだと思います。トラホルン側に立つライラス先生でさえ先ほど恐れたことなのに、アストランが承諾してくれるかどうかは分からないですね)
(一研究者の身としては、是非ともこの目で浮遊城の本物を見てみたいし、それを研究してみたい。しかし、遺跡の内部に侵入するにはアストランの説得が不可欠か……)
(一度、三人で直接話し合ってみたいです。転送門を使ってカディッサに行きますので)
(転送魔導の達人は気軽に言ってくれるなあ。君の魔力が本当にうらやましいよ。アストランとは明後日の夕方に食事を一緒にする約束をしているから、その時に君も来るといいよ)
(わかりました。本日はこれで失礼します)
タモツは念話を打ち切った。
ドラゴン飯店の中に戻ってみると、当然のようにタモツの分の食事は残されていなかった。