08-10.元連隊長、念話を飛ばす3
(あ、そうそう。そう言えば街で久しぶりにアストランに出会ってね。食事を一緒にしながらなんとなくタモツのことを話していたら仲良くなって、時々会うようになったんだ)
(え? そうだったんですか? 元気にしていましたか?)
(破魔の力を自分の意志で封じる訓練をしていて、かなりコントロールできるようになったようだよ。ただ、もともとの体質なんで自分で魔導の術式を編むことはできないみたいだけどね。もしかしたらだけど、僕が作った魔晶石から魔導を開放するくらいのことならできるようになるかもしれない)
(なるほど。もしそうなれば、他人が作った魔晶石を利用することで、疑似的にアストランにも魔導の力を使うことができる、ということになりますか)
(まあ、それは可能性だけどね。ひとまずカディール国内に伝わるイムル王国時代からの魔導が込められた品々を、アストランがうっかり触ってガラクタに変えてしまうっていうようなことは無くなったみたいだよ)
(そうなんですか……)
タモツはギスリム国王の葬儀の時に、ハジメらと話していた浮遊城のことをふと思い出した。
(先生、実はアストランにも頼みたいことがありました。アストランは念話も受け付けないし、転送門をくぐらせようとしても壊してしまうと思っていたから現実的ではないなと考えていたのですが)
(なんだい?)
(僕の友人の<竜殺しのハジメ>が、新日本共和国の領土であるイェルベ川西岸のさらに西に、イムル王国時代の浮遊城と思わしき遺跡を発見しています)
(なんだって? それは初めて聞いたよ。なんで教えてくれなかったんだ!)
古代文明の研究は、錬金術の追求とともにライラスのライフワークであった。
(すみません。ライラス先生がこちら側に来ていただけないのであれば、この話はお伝えしないつもりでした。新日本国とトラホルン王宮は、この発見を公には知らせていません)
(浮遊城がもし古代のまま動くのであれば、強力な兵器としても運用できるからか……。魔導戦車が地上を制圧して、浮遊城が空を制圧するとなれば新日本共和国とトラホルン王国は世界の覇権を握ったようなものだな)
(はい。唯一それに対抗できる可能性があるとすれば伝説にあるような飛竜部隊でしょうけれど、その部隊を編成できそうなバルゴサもトラホルンの属国に組み込まれました)
(……タモツ、教えてくれ。僕が味方しようとしているトラホルンと自衛隊は、本当に正義の側に立つ存在なんだろうね?)
(はい。少なくとも、僕はそう信じています)
タモツは力強く念を込めた。