01-15.元連隊長、魔導学院に入学する3
夕食は学生食堂で食べられると聞いていたから、それまでの間タモツとヴィーツは学院の敷地内を探索して過ごした。
学院内の施設は大まかに分けて学舎、寄宿舎、広場になった訓練場、教員たちが寝泊まりする教務舎があり、あとは周囲をぐるっと囲んだ壁と、警備員が周囲を見張るための物見の尖塔があった。
施設の内側に入るのはためらわれたので、敷地内の概要を把握した後、二人は寄宿舎の自室に戻り、それから食堂へと向かった。
ヴィーツと一緒に列に並んで、配給される食事を木のトレーに乗せているとイルマの姿が目に付いた。
もうすでに友人たちを作ったらしく、3人の女の子たちと一緒に楽しく話しながら食事をとっている。
「あそこの輪の中に入っていく勇気はないなあ」
と、食事をとり終わったタモツがヴィーツに言った。
「同感。どっか別のテーブルで……、あれ、アストラン先輩」
ヴィーツが顎で指し示した先に、一人でぽつんと食事をしているアストランの姿が目に入った。
「あの人、友達いないのかね」
「行ってみようか」
タモツは周囲を見渡した後に、アストランのついたテーブルに向かった。
アストランはこの魔導学院の中ではかなりの年長者である。そのために他の生徒たちから敬遠されているのかもしれないとタモツは思った。
「アストラン先輩、ここいいですか?」
タモツが声をかけると、アストランは驚いて顔を上げた。
「タモツ、ヴィーツ。別に構わないけど……」
アストランは言いにくそうに続けた。
「僕とあまり親しくしないほうがいいかもしれないよ」
「なんでっすか? 先輩、もしかしていじめられてるんすか?」
デリカシーのかけらもなく、ヴィーツが直截にたずねた。
「……まあ、そうとも言えるかな」
「本当っすか? 俺、そいつらやってやりましょうか?」
物騒なことをヴィーツは言った。
「あ、いや、いいんだ。僕と付き合うと魔力が落ちるからみんな僕を避けるだけさ」
「魔力が落ちる?」
と、タモツは不思議に思ってたずねた。
「僕には魔導の才能がなくてね。もう7年もここにいるんだけどいっこうに魔導が開眼しない」
「7年も!?」
ヴィーツは驚いて言った。ヴィーツ本人はたった1年で開眼したので余計に信じられなかったのだろう。
「そんなわけで、みんな僕と一緒にいると魔導の調子が悪くなるって噂するようになったんだ」
「へえ、そんなことが」
タモツは同情を込めて言ったが、隣のヴィーツはやや逃げ腰にアストランから距離を取ろうとしていた。
「そんなのただの迷信ですよ。気にすることは無いです」
タモツは片手でヴィーツの腕を捕まえた。ヴィーツは諦めたようだった。
「まあ、そうっすね。そのうち開眼するんじゃないですか」
と、適当な慰めを言ってヴィーツは食事に集中し始めた。