08-09.元連隊長、念話を飛ばす2
錬金術師ライラスはタモツたちの魔晶石生成を間近で見て刺激を受け、また自身の理論が証明されたことで研究に自信を深めたらしかった。
魔晶石生成の訓練をし直して以前よりわずかだが大ぶりの魔晶石を生成できるようになったという。そして、ライラスが積極的に行っていたのは、まさに魔素融解を回避しつつ魔晶石の力を上げていくという実験だったという。
(僕のように低い魔力しか持たない人間でも時間をかければ強力な魔晶石を作れるんじゃないか? と思いついてね。自分自身の素地の魔力よりも強いものを造れれば、色々と可能性が広がってくるから)
いかに理論が優れていようと、その理論を実践できなければカディールの魔導学会では認められることはできないのだという。
それで、ライラスは自分が作れる魔晶石をあえて何度も魔素融解させ、封入する魔素の密度を上げるという実験を繰り返していたらしい。
(わざと魔素融解させるのは僕の場合簡単なんだ。なにしろ作れる魔晶石の力が凄く弱いからね。簡単に限界に達してしまう)
錬金術師ライラスは自嘲するような念を送ってきた。
(魔素の密度を上げる、ですか。一つ一つの魔素を小さくしてたくさん詰め込むというようなことでしょうか)
(そう考えてくれたらいいよ。この可能性に思い至ってから夢中で実験をしていたんだけど、いつものごとく理論には自信があっても自分で実現するとなるとうまくいかない。理論が間違っているのか自分の力の無さが原因なのかが判然としなくてね)
(その実験、招聘に応じてトラホルンに来ていただければ一日中だってやっていられますよ?)
タモツは重ねて誘いをかけた。
(言うなあ、タモツ。確かに学院講師をするかたわら余暇を使って行ってみても、なかなか進展しなかった)
(学院の講師というお立場は、こう言ってはなんですが他の人でも務まるお仕事だと思います。ですが、錬金術研究の第一人者となれる人はひとにぎりですよ? 一緒にやりませんかライラス先生)
(まいったなあ。出会ったときはただの子供だと思っていたのに、前世の記憶を持っているっていうのは本当なんだな)
ライラスは苦笑したようだった。
(分かったよタモツ。そのお話、受けることにする。学院に退職願を出して受理されたとして、動けるまでにひと月から三か月はかかると思うけれど)
タモツの執拗な口説きに折れたのか、ライラスは承諾した。
錬金術の研究に打ち込んで暮らせるというのは、ライラスにとって非常に魅力的な話であるようだった。