08-08.元連隊長、念話を飛ばす
女王に謁見を賜った後、タモツはカナデとドラゴン飯店に立ち寄った。
昼飯時のピーク時をやや過ぎた時間帯であったが、店はやや混雑していた。
席に通されて雇いのトラホルン人少年に注文を訪ねられた。
カナデの食べたいものを全部注文するようにタモツは気前よく言って、自分はその中から少しずつ分けてもらうことにした。
「ちょっと外に出て念話してくる」
「なんか、ケータイで電話してくる! みたいですねえ」
「ハハ……。ケータイ、懐かしいね。現世にはそんなものもあったなあ」
カナデに注文を任せてタモツは店の外に出た。
混雑した店の中で念話の術式を使ってみても集中できる気がしなかった。
タモツははるか北方、カディールの首都カディッサにあるプラッド魔導学院の一室、錬金術師ライラスの研究室に向かって念話を飛ばした。ライラスを捕まえようと思ったら研究室を当たればたいていそこにいた。
(ん? タモツかい?)
タモツの呼びかけに少したって気が付き、ライラスは念を返してきた。
(お久しぶりですライラス先生。単刀直入に申し上げます。本日は引き抜きのお話があって念話いたしました)
(引き抜き? 僕をトラホルンに呼んでくれるっていう話かい?)
(はい。先生の錬金術の知識と指導力を頼ってのことです。トラホルンの新女王となられたシーリン陛下は、ライラス先生に中級魔導士待遇を用意してくれました。功績によっては待遇のさらなる改善も考えてくださるということです)
(トラホルンの中級白魔導士に相当する待遇? それはまた、僕のような一介の学院講師から見れば破格の条件だなあ)
ライラスから笑いの念が送られてきた。
(で、トラホルン王宮に雇われて僕は何をするんだい?)
(以前廃村の風車小屋で石臼を動かした実験の延長です。異世界自衛隊が所有する戦車という兵器を魔晶石で動かす実験を僕は今しているのですが、この量産化にあたって先生のお力を借りたいのです。旧式の小さな戦車を動かすことには成功したのですが)
(なるほど? 新型のものは大きくて、君が作れる魔晶石を強化しても魔素融解ギリギリになるということかな)
タモツが説明しようとしていた先を読んで、ライラスは言った。
(ちょうど自分で似たような実験をしていたところだよ。君たちの訓練に付きあっているうちに僕も少しだけ魔晶石生成の腕を上げてね。僕が作れる魔晶石の限界は君たちのものよりもずっと小さいけれど、理論を確認するための実験くらいには使える。注入する魔素を凝縮して、密度を上げつつ魔素融解を避ける試みをしていたところだったんだ)