08-07.元連隊長、女王に謁見する2
「シーリン女王陛下に置かれましてはご機嫌うるわしゅうことと存じ上げます。沖沢タモツでございます」
タモツは宮廷作法に従って女王の前に膝をついてこうべを垂れた。
「おもてをあげなさい<魔獣殺し>。亡き父の友であるあなたは私にとって叔父のようなもの」
わずかな間に、若い娘らしかったシーリンに女王としての自覚が身についていたようだった。立ち居振る舞いも堂々としている。
「何かのぞみがあるなら何なりと聞こう。遠慮なく言うてくれ」
「はいっ。お心遣い痛み入ります」
タモツは顔を上げて玉座の上のシーリンを見上げた。
随伴したカナデはタモツの二歩後ろで膝をついてかしこまっていた。
「実は一人、カディールの魔導学院から我らの側に引き抜きたい人材がいるのです。その人は錬金術師ライラスと言います。特に魔晶石関連の理論構築に見るべきところのある人物で、当人の魔力は小さいものの、人を育てることにも秀でています。この人物をトラホルンの臣下として雇い入れ、異世界自衛隊に顧問として派遣していただきたいのです」
「それは、新日本国の人間として迎え入れるのではいけないのか?」
シーリンは素朴な疑問を口にした。
「我が新日本共和国は異世界自衛官のための新国家として樹立いたしましたが、自衛官と婚姻を結んだものなどを除いて移民を積極的に受け入れることはしておりません。それに、錬金術師ライラスの忠誠はあくまで故国のトラホルンにあって、新日本国には無いと考えます」
「なるほど。あいわかった。錬金術師一人を新たに養うことなど造作もない。お前の望むようにしよう」
シーリンはうなずいた。
「待遇は当面、中級魔導士に準ずることで良いか? 功があれば待遇についてはまた改めて考えよう」
「ありがとうございます。早速念話で先方に打診し、女王陛下にもご報告いたします」
「うむ。私は基本的に父が進めていた物事は、そのままの路線を継続する考えでいる。戦車という鉄の兵器を魔導で動かすというその試み、いずれ新日本共和国とトラホルン王国、さらにはサルヴァが治めるバルゴサ王国の平和に寄与するものと信じておるぞ」
「心強いお言葉、ありがとうございます」
タモツはもう一度こうべを垂れてから立ち上がり、謁見の間を辞去した。
油断していると空気を読まないカナデが冴子に向かって手を振ったりしそうだったので、カナデを促して早々に立ち去った。