08-05.元連隊長、魔導戦車を造る5
魔晶石を使った戦車の駆動実験はひとまず成功を収めた。
実験を終えたロクイチは解体されて、鉄くずとしてトラホルンの鍛冶屋組合に売却されることが決定していた。
「ありゃー。将来の異世界自衛隊を変えた記念碑になるかもしれない戦車ちゃんなのにー……」
カナデは早くも61式戦車の解体作業にかかり始めた整備隊員たちを見つめながら、気の毒そうに言った。
「記念館みたいなところを作って飾って置ければいいんだろうけど、こいつを置いておく場所を駐屯地内に準備するスペースは無いし」
前世のタモツが生まれる前に設計された、それこそ骨董品のような戦車である。新日本国に遠い将来博物館でも作ったら、そんなところに安置されているのがふさわしい代物だった。
「それにしても小隊長、森本モトイ大統領は新日本国をゆくゆくは世界の警察にしようと目論んでいたんですかー」
「そうみたいだね。僕はてっきり、あの人は戦争をしたい人なんじゃないかって思っていたけど」
「現世での日本は諸外国との様々なしがらみや憲法の問題で身動きが取れない状態でしたからねえ。森本さんの著作はカナデも読んだことがあったんですよ。だいたいのところは忘れちゃいましたけど、政治の最終手段として戦争というカードを持ち、なおかつそれを使わない国にしたいのだって書いてあった気がします」
「ああ、僕もあの人の著作は現世にいたときに出版されていたものは全部読んでいたと思う。確かにそういう主張をしていたね」
ふいに、異世界転移直後の新隊員時代に刈谷ユウスケと読んだ本について話し合ったときの記憶がよみがえって、タモツの胸はまた苦しくなった。あの頃、確かにタモツと刈谷は友人同士だった。
その後の経緯を考えてみて、刈谷を殺すという選択に行きついたことは他に道がなかったし、それゆえに後悔はしていない。
だが、この手で人を殺したのだという自覚だけは、ずっと忘れないようにしようとタモツは心に誓っていた。
いつかそれが、命令だから、戦争だからということで当たり前になってしまわないように。
必要ならばやらなければならない。それは仕方がない。だが、痛みから逃れるために自己正当化で開き直ることはすまい。
タモツはこの痛みや矛盾を抱えたまま、異世界で自衛官を続けていこうと改めて心を決めた。
「どうしました、小隊長? タモッちゃん?」
「え? ああ、うん。なんでもない。昔のことを少し思い出していただけ」
タモツはカナデのほうを振り返って無理に笑った。