08-03.元連隊長、魔導戦車を造る3
タモツは前回実験に使った魔晶石を回収し、それに魔晶石融合を繰り返して魔圧、魔流量、蓄魔量の全てを高めて再構築していた。
魔晶石生成に才のあるイルマならもっと容易くやってのけるのだろうが、タモツとしては自身の限界までチャレンジしてみた。
「力の弱い魔晶石を土台に融合を重ねると、どこかで融解を起こすはずだって僕の師匠のライラス先生が言っていたから、あんまりギリギリを攻めるのも怖いんだけどなあ」
タモツはカナデに向かってそう言いながら、自身の最高傑作である大きな魔晶石を抱えて戦車に乗り込んだ。
「操縦席、準備オッケーでーす!」
実験に参加してくれている元戦車乗りの隊員が前方から声をかけてきた。
エンジン付近から操縦席までの間も、声が通るように貫通されていた。
「はーい! じゃあ動力つなぎます。ちょっと待っててください!」
タモツは魔晶石から魔素の流れるルートを構築した。
これはエネルギーが物質的な空間を移動する、熱力学や電磁気学で説明できるような現象ではなかった。
あえていうなら、魔晶石から生み出される魔素は三次元空間と霊的に接続された高次元を経由して出入力される。
魔導の眼を開くための修業とは、脳の奥にあるどこかを高次元とリンクして、意識が時間や空間を飛び越えてしまう超感覚を身に着けることにある。
これは実際にそれを身に着けたタモツにも、言葉では説明することが難しい事象であった。
タモツは魔導の眼を開いて魔素の流れるイメージを見ていた。
魔晶石からあふれ出す魔素に流れを作り、もやもやしたドライアイスの煙のように放出されるそれらに明確な道筋をつけてやる。
もさもさした綿が集められてよられて糸になっていくように、それは最初は細いラインを形成する。
それをいくつも集めて太い毛糸のようにして、さらにロープのようにして、目には見えないエンジンの内部を終点とした魔導の道が出来上がる。
その道の先に爆発の術式を仕込み、化石燃料の爆発に変わるエネルギーとして動力を生み出すのである。
イメージとしては三次元空間上にCGで光の道を描くような感じだが、実際にこのエネルギーは物質的な空間移動を伴わず、異次元を経由して発現する。
そのため、理屈としてはエネルギー源となる魔晶石をトラホルンの首都ボルハンに置いて、エネルギーを受ける側をカリザト駐屯地に置いても空間移動によって魔素が減衰することはなく、また、タイムラグもないはずだった。