08-02.元連隊長、魔導戦車を造る2
建物の中に運び込まれた61式戦車は、ガス溶接の機材などによって外側からエンジン付近にアクセスできるように内部を改造されていた。あくまで動力実験のためのものなので、この戦車が実際に動いたとしても戦場に出るということは無い。
タモツは戦車のエンジン近くに魔晶石を安置し、エンジン内部で燃料の爆発に相当する激しい力を解放させるため魔素のルートをつないだ。
これまでの実験は3回失敗していた。
1度目はエネルギー開放のルートがなかなかうまくつながらず、エンジン内部で魔素の爆発を起こす前に魔導の力が外側に漏れ出してしまって実験を取りやめた。
2度目はエンジン内部での爆発を起こすことに成功はしたものの、戦車を動かせるほどの動力を得られないまま終わった。
3度目は一瞬戦車にエンジンがかかったものの、安定した爆発力を維持することができずに戦車は停止した。
「その魔晶石からエンジンを経由しないで、直接キャタピラのところに動力を送るっていうことはできないんですか?」
カナデがふと疑問を口にした。
「理屈では可能だと思うけど、動力を伝えるルートの取り方が難しくなるな。それに、なるべく元の戦車の構造を変えないほうがいいと思う」
タモツはそう言った後に、ちょっと考えなおした。
「うーん。もしだけど、戦車兵が全員魔導士で戦車の緊急停止なども魔導で制御できるのだったら、エンジンを取り外して魔晶石と駆動系を直結してしまうというのもありなのかなあ……」
「カナデちゃんは戦車の構造は詳しく分かりませんけど、経由する部品が少ないほうがエネルギーが目減りしないのかなって思って」
「うん。確かに」
タモツはうなずいた。
「ただ、それは将来異世界自衛隊に魔導士隊員が増えたらの話かなあ。異世界自衛隊では今後化石燃料を使わずに車両は魔晶石駆動に改造していくことになるから、車両を扱う隊員は自動的に魔導士が当てられることになるだろうね」
「これ、最初から戦車じゃなくて、まずはジープとかで実験じゃダメだったんですかね?」
カナデがまた思いついてタモツに言った。
「あー……」
タモツはうなだれた。それはもっと早く提言してほしかった。
「ごめん、ギスリム国王と森本大統領から<とにかく戦車の開発を急げ>って言われていたから、そういう発想はなかったよ」
「あ、いえ。こっちこそなにかスミマセン小隊長」
隊付き幹部、というよく分からない役職を与えられて小隊長補佐をしているカナデが大柄な体を縮めてから、気を取り直して言った。
「じゃあ、四度目の正直って言いますし、バーンと実験を再開しちゃいますか!」