07-20.元特務隊長、災害派遣隊を撤収する2
新日本共和国は体裁としては独立国家となっているが、現在の立場としては事実上トラホルンの属国であった。
両国は軍事同盟上も対等の立場ということになっていたが、軍事力において圧倒的に上である異世界自衛隊を抱えながら、政治的には新日本国がトラホルンの経済、食糧生産などに依存し、寄生しているというのが実情である。
この歪な関係をもってしても独立を急がなければならなかった理由については、時世と勢いというものもあるだろうが、故ギスリム国王と森本モトイ現大統領との間になんらかの密約があったのかもしれないとハジメは睨んでいた。
なんのことはない、初代大統領だなんておだてられて担がれていた自分は、ただの神輿に過ぎなかったのではないか。
そのように考えるとハジメは少し面白くない気持ちもあった。
とはいえ、それを今更亡くなったギスリム国王に文句を言うわけにもいかない。森本モトイ大統領に対しては、機会を見て一対一で話をしてみたいとハジメは思っていた。
「開拓した森林地帯の後に田んぼを開墾して、南方大陸から仕入れた米を植えるっていう話は進んでいるのかねえ」
「はあ。私も詳しくは存じ上げませんが、将来的には日本人が消費する米を全て新日本国で賄い、さらには諸外国にも売りに出す考えのようですよ」
「はあん。米を使った現世風料理はトラホルンじゃちょっと流行ったからなあ。バルゴサにも出してみて、いずれはカディールや東方通商連合にまで販路を伸ばすつもりなのかね」
災害派遣は準備も派遣も大変であるが、後始末だってそれなりに大変であった。朝礼場として使われるバイアランのグラウンドに、災害派遣に持っていった天幕などを広げて隊員たちが整備をしている。
現世と違ってホースで水を撒いたり、バケツに水を汲んで……というわけにはいかなかったから、ほうきで土やほこりを払ってぼろ布で拭いて、それをたたんでしまうという具合であったが。
鉄の武器を整備する鉱物油は気まぐれに転送されてくるものに加え、ディール山脈で採掘されるものを使っている。銃弾と同様に量を確保できるわけではないので、常に念入りな手入れというわけにはいかない。魔獣などを相手に弾を撃った後には、少ない油を大事に使って整備用工具をみんなで使いまわして時間をかけて整備するのだ。
弾数が貴重なのに加えて整備が手間だということもあり、小型の魔獣を相手にする場合は磨き上げた銃剣をアテにすることも多かった。
「どうだ、みんな。整備のほうは順調に進んでいるか?」
ハジメは連隊長らしからぬ気安さで、物品整備をしている連隊の隊員たちに声をかけて回った。
「手を抜かないでしっかりやってくれよ? 頼むよ?」
隊員たちはハジメの軽口に笑いながら、丁寧な敬礼をしてよこした。
連隊長に着任した当初は自分なりに連隊長らしく、自衛隊らしくやろうと思っていたハジメだったが特務隊時代に培ったスタイルがどうしても出てしまって、今では開き直って自己流でやっている。
「そういう感じでやられてしまうと、隊員たちもかえってやりにくいと思いますが……」
生真面目な持田などはハジメに苦言を呈したものだったが、今では連隊の隊員たちのほうがハジメの流儀に合わせてくれているようだった。