07-16.元特務隊長、ドラゴン飯店に集まる4
その日は客の入りが悪く、タモツたちの他に数組の客が入った後は客足が途絶えた。
「今日はもう締めちゃいますか」
と、金井が入り口に「本日終了」の看板をぶら下げた。
「まだ時間がいいなら、俺と双葉も混ぜてくださいよ。特務隊時代の話なんかしませんかね」
「いいですよ、金井さん」
タモツが笑って金井のほうを見た。
「音に聞こえるドラゴン退治の話なら、紙芝居で見ましたけど実際のところは随分違うって安部さんから聞いてます」
「あいつも王都一番の紙芝居作家様になっちまったからなあ。事実にあることないこと付け加えて話を面白くして、ずいぶん儲けてやがるみてえですよ」
「まあ、うちの店にも金を落としてくれる上客ですけどね」
金井と双葉がそう言って笑った。
「ドラゴン退治の詳細については、私もあまりちゃんと聞いたことは無かったな」
「カナデちゃんもないですよ。うちのダーリン秘密主義なんですぅ」
「ダーリンいうな。別に秘密にしているわけじゃねえよ」
それからひとしきり、特務隊がラール大陸全土に名を響かせることとなったドラゴン退治の全容を、ハジメは語って聞かせた。
端的に言えば、眠っているドラゴンのねぐらを突き止めてライフル狙撃で目をつぶし、機関銃で腹を裂いて無反動砲を叩き込み、爆薬で落盤させて動けなくしたところに近接戦闘を仕掛けて倒した、というような流れだ。
「ちなみに、無反動砲を打ち込んだのは俺です」
と、金井がニヤニヤしながら言った。
「俺は小銃撃って、動けなくなったドラゴンの前足を切ってました」
双葉も言った。
「鎧塚のマモさんもここに来るかい? 久しぶりに会いたかったんだがな」
「たまーに来ますよ。あの人は今じゃ、トラホルンきっての歴史学者だ。あの人どういうわけか、トラホルン語をしゃべるときはあまりどもらないんですよね。そのせいなのか、割とよくしゃべるし」
「そうなのか。じゃあ、マモさんにはトラホルンが合ってるんだろ。あの狙撃の腕前を埋もれさせるのは惜しいと思うけど」
ハジメは鎧塚に<王になる>という夢を語って、現実性が無いと否定された日のことをぼんやり思い出していた。
「横田も死んじまったなあ。あいつは天才だったんだけど惜しいことをした」
「横田は残念でしたね。あいつの作成した地図は永遠に残ると思いますけど」
「死んだ後に自分の作ったものが残るっていうのは、ある意味幸せなのかもしれませんねえ」
ハジメと金井と双葉がしんみりと言った。
「横田さんのおかげであの森林地帯を探索できたようなものですしねぇ」
カナデもうなずいた。