07-13.元特務隊長、ドラゴン飯店に集まる
ハジメは、夕刻までは妻のカナデと共に、もっぱらウインドーショッピングをして過ごした。
特にこれと言って珍しいものもなかったが、戦争の前後はバイアランに詰めていて、その後はバルゴサへの災害派遣に出かけることになったから、ボルハンの街並みを見て歩くのは久しぶりで楽しかった。
タモツは久しぶりに王立図書館へと足を運んだようだった。
日暮れが過ぎたころ、ハジメたち四人はタラス砦にほど近いドラゴン飯店に集まった。
ひところのブームと言えるほどの客足はもう無いようだったが、安定して客が入って繁盛しているようだった。
「いよう、鉄さん、双葉!」
ハジメはカウンター越しに調理場へ声をかけた。
相変わらず色黒で顔の濃い金井と、顔の印象が薄い双葉とが元気でやっているようだった。
「ああ、隊長!」
金井は調理場から叫んでよこし、双葉は調理場から出てきてにこにこと笑った。
「あれ? そういえば注文取ったりするのに女の子を雇ってなかったか?」
「常連客とデキてやめちまいましたよっ! いまじゃもうお母さんだ」
金井が奥の調理場でケラケラと笑った。
「えー。そうなんですかぁ?」
カナデがちょっと面白そうに言った。
「カナデさんもお元気そうでなによりです」
双葉が笑って言った。
「元気ですよぉ。後でタモツっつあんとサエちゃんも来ます」
と、そんなことを話している間にタモツと冴子が連れ立って入ってきた。
「こんばんはー。お久しぶりですっ!」
「え? タモツさん? 大きくなりましたねー」
「みんな言うことは同じだなあ。親戚のオジサンがたくさんいるみたいだ」
双葉に向かってタモツは苦笑した。
ハジメは各人の注文を取りまとめて双葉に伝えた。
それから、四人はテーブル席に着いた。
「なんか懐かしいね、この感じ。サエちゃんの連隊長室に集まって昼休みにだべってたよね」
「そーですねえ。あの頃も楽しかったですねえ」
あの頃「は」でないところがカナデらしいなと、ハジメは思った。うちの妻はおおむねいつも人生というものを楽しんでいる。
「ハジメ、戦車の魔晶石駆動実験は順調に進んでいるのか?」
「戦車を動かすにはまだ、魔晶石の魔圧が足りなくてね。もっと多くの魔晶石を融合して再実験しないとだね」
「魔晶石、っていうのはなんだ。魔力の電池みたいなものなのか?」
「おおむねそんな理解でいいよ。それから力を引き出して戦車のエンジンを動かそうっていうことをしているんだ」
「エンジンをわざわざ動かすのか? 直接動力系に魔導の力を送り込むとかでなく?」
「現存する戦車の構造をなるべく変えたくないのと、エンジン内部で爆発を起こして燃料の代わりになるようにすれば、システムとしては単純化できるからね」
ハジメの問いに、タモツはそう答えた。