01-13.元連隊長、魔導学院へ入学する
キャラバンの本体はオルラン川西岸の商業地区に向かい、押井が御する4号車だけが大通りに面する城塞のような場所に到着した。
「ここがカディールの名門、プラッド魔導学院だ。三人とも馬車を降りてくれ」
押井は御者台に乗っていた店員に馬車の番を任せて、自ら大荷物を持って馬車を降りた。
自分たちの小さな荷物を持ったタモツら子供たちは次々に馬車を降り、後ろから押井の荷物を手で支えて手伝った。
押井の荷物はずっしりと重い、子供たちの入学金のための金貨であった。
季節は春で、門番に通されて城塞のような魔導学院の敷地内に入ると、壁際に生えた木にピンク色の花が咲いていた。
「こちらの世界でも物事のスタートは春なんだね」
「雪が多い季節には何もできないからでしょう」
と、押井は重たい荷物を抱えながら笑って言った。
「日本では桜が咲いているのかな」
「サクラって?」
「日本で花を咲かせる木なんだ。その花は徐々に枯れるのではなくて一気に散ってしまうので、潔い死に例えられたりする」
タモツはイルマに説明した。
「きれいなピンク色の花と、その散り際のあっけなさから日本人に特に愛されている花なんだ」
「変なの。私なら一年中咲き続けるような花のほうを愛するけど」
「日本の隣の国ではそうみたいだね。一年中咲く花を愛するみたい」
「別世界にも日本以外にたくさん国があるんだな」
とヴィーツが興味深そうに言った。
魔導学院の敷地は広く、正門をくぐってから学院の建物までがちょっと遠かった。
カディール語の看板が所々に建てられていて、矢印で入学希望者を誘導していた。
やがて魔導学院の校舎にたどり着くと、そこには他にも数人の入学希望者と思しき子供たち、それから保護者や執事と思わしき大人の姿が見えた。
「なんだか混じり血の子供が多くねえか? 俺たちもそうだけどさ」
「混血児は魔導士に向くとされているからよ。生まれつき体内の魔素が強いと言われてる」
イルマがヴィーツの疑問に答えて言った。
「あとは、貴族の私生児で混血児など家督を継げない子たちが魔導士を目指すことも多いのよ」
この世界にもいろいろあるんだなあ……。
と、タモツはぼんやり思った。
そういえば、ギスリム国王もトラホルンとバルゴサの混血で、魔導士だったっけ。
押井は子供たちを伴って入学の手続きを済ませると、3人に改めて向かい合って言った。
「じゃあ俺はこれで行くけど、3人ともしっかりな。何年後かにまた会おう」
子供たちはそれぞれにうなずいた。