07-09.元特務隊長、玉璽を渡す
「ちょっと失礼」
と言って、ハジメは棺の周囲を守っていた兵士の間を縫って、王女たちに近づいた。
「シーリン王女、サルヴァ王女、俺はキノシタ・ハジメ。亡きギスリム国王陛下からは、もったいなくも友と呼ばれていました」
「……<竜殺しのハジメ>ですね。幼いころにお見かけした覚えがあります」
まだ泣きながら、シーリン王女がハジメに向かって言った。サルヴァ王女もハジメを振り返った。
「私もザッキーからお話はかねがね」
と、サルヴァ王女は少し離れたところに立っていた岡崎の方をちらりと見た。
岡崎とロトムは王の婿として喪服を着こんで立っていたが、王女たちが父の棺に縋り付いている間、それを邪魔しないようにしていたようだ。
「ギスリム国王陛下の最後の言葉は、お二人に向けられていました。それをお伝えします。<シーリン、サルヴァ、二人の結婚を見届けられなくて済まなかった>という内容です」
シーリンとサルヴァは互いに抱き合ってひとしきりまた泣いた。
ハジメはしばらくの間、ただ黙ってそこに立ち、若い王女二人を見守っていた。
「それから、もう一つ。これはサルヴァ王女に」
タイミングを見計らって、ハジメは自分の首に下げていた皮袋を取り出してサルヴァ王女に手渡した。
「竜玉石の玉璽です。サルヴァ王女、あなたに手渡すように国王から託されたものです」
「ありがとう、ハジメ様」
サルヴァ王女は皮袋から玉璽を取り出して確認した後、それを自分の首に下げた。
「これは祖母から父に、父から私に託されたバルゴサ王権の象徴。私はバルゴサの女王になります」
「ご立派なお覚悟です」
わずか15歳の女子の言いようとも思えず、ハジメは感嘆した。この娘は外見は可愛らしく見えるが、中身はギスリムに生き写しのようだ。
「わ、わたしも頑張ってトラホルンを率いていきます」
鼻をぐずぐずいわせながら、姉のシーリンも気丈にそう言った。
「お父様のように立派な王にはなれないかもしれないけれど、民が安寧に暮らせるように私もできることからやっていきたい」
ハジメはシーリンに向かってうなずいた。内心では、こっちのお嬢ちゃんはちょっと頼りない感じだけどなあと思ったりもしたが。
「俺もいっとき国家元首なんてものをやらしてもらったことがありますから偉そうに言わせてもらいますけど、自分一人で何でも背負い込むことはないんですよ。自分自身はまとめ役でいいんです。他人の力を借りて国を動かして、みんなが働きやすいようにすることに心を配ればそれでいいんだと思いますよ」
シーリンとサルヴァはハジメの言葉にうなずいた。