07-08.元特務隊長、トラホルンへ帰還する2
王都ボルハンに王の棺が到着した。パバール配下として随伴していた白魔導士、および早馬による伝令によってギスリム国王の死は王宮へと伝えられていた。
そして、王都ボルハンでもその噂はすでに広まっていた。
王都の南の入り口から入門した棺と守備兵たちは、多くの民衆に見守られて大通りを北へと進み、旧市街に入った。
そして、そのまま王宮へと向かって行った。
葬列の最後には、王を殺した大罪人である上級魔導士パバールの遺骸が後に続き、その身体には一本の剣が突き立てられていた。
民衆はその遺骸に向かって罵り声をあげ、中には近づいて石を投げるものもいたが、守備隊に制止された。
王の葬儀が終わった後、パバールは裁きを受け、遺骸は手足を切り刻まれた後に市中にさらされることになるのだろう。かつて、刈谷ユウスケが罪人として晒されたことがあったが、今回の事件の罪はその比ではなかった。歴史に残る大罪であった。
パバールのしでかしたことに弁護の余地はない。だが、イムルダールでともに過ごした過去が思い出されて、ハジメは暗鬱とした気持ちになった。パバールとは気心の知れた友人という間柄ではなかった。
しかし、生真面目で頼れる魔導士という好印象をハジメは持っていた。もし何かで一緒に酒でも酌み交わすような仲になっていたら、パバールが心のうちに貯め込んでいた鬱憤を汲んでやって、このような凶行を防げたのではないか? などとハジメはぼんやり考えていた。
だが、すべては過ぎてしまったことだ。快活で頭が切れて、イベント好きで策略好きで、何を考えているのか分からないところがありながら、なぜか憎めないあの王様は死んでしまった。
(あの人は死の間際に俺を友と呼んでくれた。そして信頼してこの玉璽を託してくれた。その気持ちには応えなきゃならねえな)
棺が王宮に入城すると、喪服を着たシーリン王女とサルヴァ王女が入り口で待っていて、父王の棺に縋り付いて泣いた。
ことに、シーリン王女の嘆きは激しく、ハジメはとても見ていられなかった。一方で、年若いサルヴァ王女は、涙を流しつつも静かにこの現実を受け止めているように見える。
シーリン王女は18歳、サルヴァ王女は15歳だったはずだが、それぞれこの若さで国を背負って立つことになってしまった。
ギスリム国王の生前の構想によればシーリン王女をトラホルン女王に、サルヴァ王女をバルゴサの女王にするという話だった。
世代交代が想定よりはるかに前倒しになったものの、ギスリム王の臣下たちはその構想通りに王女たちを立てるはずだった。