07-03.ギスリム国王、バルゴサへ行く3
戦勝によってトラホルン帰属となったイサを抜けて西回りにケルナドンナ、アルパシャ、ドルムドンを巡ったのち、ギスリムは王都ヌーン・バルグへと入った。
そこでバルゴサの首脳陣と会談をして、ギスリムはトラホルンの王権を長女のシーリン王女に委譲し、自身はバルゴサ王としてヌーン・バルグに入るという考えを告げた。
そして、いずれは次女であるサルヴァ王女を玉璽の継承者として、バルゴサの女王に据えるという構想を語った。
「バルゴサの玉座に女王が座った例はなくもありませぬが、長い歴史の中でも非常にまれなこと。国民が反発をいたしますぞ」
「王女はまだ確か15とうかがっております。婚約者は確か40近いとか。その者を王婿として、一代限りの王位に付けるというほうが良いのではありませぬか」
「王家の血を受け継がない者を玉座に据えるというのか? それは私は反対だ」
「一番良いのはギスリム陛下がバルゴサ王として玉座にお留まり遊ばして、サルヴァ王女には男子を生んでいただいて……」
「ああ、もうよい! 諸君らがバルゴサの王家や歴史を重んじて様々に考えてくれていることは、ようわかった!」
ギスリムは大きな声でバルゴサの重臣たちのとりとめない議論を遮った。
「余が王座に就くとともに、バルゴサは新たな国として生まれ変わる。そう心得よ。伝統を重んじることも大事だろうが、今は革新のときである。手始めに、魔導を重んじないバルゴサの気風を改める。ヌーン・バルグにトラホルン式の魔導士を養成する<塔>を設立する」
「なんですと!」
一番に声を上げたのは、バルゴサの重臣たちではなく魔導防御のために国王に付き従っていた上級魔導士のパバールであった。
その声にギスリムは眉をひそめて振り返り、バルゴサの重臣たちも思わずパバールのほうを見やった。
「し、失礼をいたしましたっ!」
パバールは軽く頭を下げて、恥じ入るように半歩あとずさった。
「我が魔導士が失礼をした。バルゴサは先の戦争で強力な魔導兵器をトラホルンに向けて放とうとしたが、幸いにも我々はそれを防ぐことができた」
ギスリムは居並ぶ首脳陣たちひとりひとりの顔を見ながら、ゆっくりと言った。
「いや、過ぎたことを攻め立てようというのではない。あれは亡きアガシャー王が独断で投入したものだと余は信じる。飛竜の育成と合わせてバルゴサ国内で爆槍を開発したのだとみているが……」
バルゴサの重臣たちは、話がどこへ行こうとしているのかわからずに不安そうな顔でギスリムを見返した。
「魔導に無頓着なバルゴサは、言い換えれば魔導の運用について縛りがないとも言える。あのような無法な魔導兵器の開発や運用を禁じるとともに、無害で利便性の高い魔導については、これを広く平和活用できるようにしたいのだ」
ギスリムは静かにそう言った。