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07-02.ギスリム国王、バルゴサへ行く2

バルゴサ国内を巡幸するにあたって、旧アガシャー派、またはアガシオン派からの妨害や凶行などが警戒された。

バルゴサ語を話せるギスリムは、自身の言葉でバルゴサの民に語り掛けることができる。


次期国王として首脳陣から認められた今、民衆の心をとらえることがギスリムにとっての次の課題であった。

トラホルンからの潤沢な食糧援助を行うことによって、何世代にもわたって醸成されてきたトラホルン国への反感は、かなりの程度緩和されているとギスリムは見ていた。


バルゴサの南に位置する地方都市ケルナドンナの中央広場で、ギスリムはしつらえられた演説台の上に登壇した。


「親愛なるケルナドンナの皆さん。私はバルゴサの遺児であるイスリン王女の子、ギスリム・ハールバルムである!」

耳に心地いいギスリムの第一声は、広場に集まった民衆たちに強く響いた。

「過去、アガシャー派の者たちによって我が母は故国を追われ、私の伯父にあたるイシャー王子は亡くなられた。しかし、今はもうそれについての遺恨は言うまい。私はバルゴサの王位継承者としてこの地にやってきた。今は亡き、伯父と母の遺志を継ぐものとして、この玉璽を身に携えて!」


ギスリムは言葉を切り、胸元の皮袋から竜玉石の玉璽を取り出して見せた。

聴衆たちが「おおっ!」とどよめいた。ごく近くにいるものしかそれは視認することができなかっただろうが、正統な王位継承権を意味する玉璽を目の前に見ている、という興奮をその場の誰もが感じているようだった。


ギスリムはその効果を確認するように聴衆を見回して、少し勿体をつけてから話を続けた。


「私は皆さんに誓おう。必ずやアガシャー王の時代よりも人々が平和で、安寧に暮らせるように努めると。国民あっての国家であると私は心得ている。新しいバルゴサ国のため、皆さんたちの協力をお願いしたい!」


王者たるものが民衆に<お願い>をするなどということは、バルゴサの国民にとっては前代未聞の出来事であった。

聴衆たちは何事が起ったのかわからない、という風にしばらく沈黙していたが、やがてどこからともなくまばらに拍手が起こった。

一度起こった拍手の音は連鎖するように増えていき、やがて広場に居合わせたすべての者が大きく手を打ち鳴らした。

「ギスリム様、ばんざーい! バルゴサ王国ばんざーい!」

広場の中で誰かが大きく叫んだ。

実のところ、それはギスリムが事前に会場に潜ませておいたサクラであったのだが、やがて会場の多くの者たちがそれに唱和した。


ギスリムは壇上の上から、大きく両手を聴衆に向かって振りながら、にこやかに笑って見せた。

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