07-01.ギスリム国王、バルゴサへ行く
アガシャー王の後を継ぐ権利を主張しているトラホルン国王ギスリム・ハールバルムはバルゴサ国内の巡幸を計画していた。
先の戦争で打ち破ったバルゴサの軍人たちを掌握して味方につけたのち、押井商会を含む息のかかった商人などをバルゴサの各地に派遣して、バルゴサ国内にギスリム派を形成しつつあった。
飢饉という国難にあたって申し出た食糧援助は、残されたバルゴサ首脳陣から願ってもないこととして迎えられ、すでに木下ハジメを団長とする災害派遣団が多くの援助物資を運搬してバルゴサ各地に派遣されていた。
そんな中、国王ギスリムは次期王位継承権を主張するものとして、また、友好国の王という立場として、バルゴサ国内を巡幸して回ることをバルゴサ首脳陣に提言していた。
バルゴサではギスリムを次期王位継承者として認めてバルゴサの王座を明け渡すべきであるとする者と、アガシャーの遺児であるアガシオン竜太子をあくまで後継者とすべきだとする勢力が対峙しており、王座が空位のまま1年近くが過ぎようとしていた。
結果、アガシオン派の旗色は悪かった。竜太子アガシオンは苛烈で知られたアガシャー王とは違って惰弱ともいえるほどに気が弱く、もう一人の男子であるバルガシオン王子は性格に問題はないものの、非常に病弱なたちであった。
アガシャーには他に娘たちがいたが、いずれも国内の有力貴族やカディールの貴族たちと婚姻しており、王位継承に名乗りを上げる者たちはいなかった。
アガシャーの従妹にあたるイスリン王女の血筋となれば、血統的には申し分がなく、またトラホルン王家の血を引いているギスリムが王に付けば、トラホルンからの定期的な食糧援助にも期待が持てるだろう。
アガシャー王配下の時代にはトラホルンに対して積極的に主戦論を唱えていたような者たちの中にさえ、ギスリムがバルゴサ王になることへ期待を寄せるものが出始めていた。
そして、ギスリムがバルゴサに打診してからひと月後に、トラホルン国王ギスリムのバルゴサ巡幸が決定した。
立場としては、トラホルン国王ではなく、バルゴサの王位継承者としてである。
バルゴサの首脳陣は玉璽の存在を知って以来、ずっと王位継承問題について話し合いを続けていたが、ついにギスリムの王位継承権を認めるということを決定したのだった。
それからさらにひと月後、トラホルンの守備隊500に守られてギスリムは母の故郷であるバルゴサに生まれて初めて足を踏み入れた。