06-20.元連隊長、冴子と過ごす2
翌日、タモツは4年ぶりに冴子とデートを楽しむことになった。
特にどこに行くというわけでもなく、二人はボルハン市中をぶらぶらして歩き、歩きながら話をして過ごした。
カディールへの出発前に、二人の間にはいろいろあった。
タモツにはよく分からない理由で冴子から別れを告げられて、その後に復縁を一方的に宣言されて撤回された。
タモツと共にカディール行きが決まっていた同僚のイルマがタモツのことを好きだと言い始めて、たまたまそこに居合わせた冴子が嫉妬して激怒したり。
結果として、そのおかげで冴子が別れを撤回してくれたので復縁はイルマのおかげとも言えたのだったが、そんなこんなでゴタゴタして、最後にはタモツの出発前に冴子が見送りに来てくれたのだった。
「サエちゃん、結局あれはなんだったの? 不安になっちゃったの?」
とよほど聞いてみようかとタモツは思ったのだったが、変なところを刺激してまた話がおかしくなってしまうのが怖かったので、結局それは聞けなかった。
「謎の人形作家ザッキーの正体が第二王女の婚約者だとわかって、ボルハンでは今ザッキーの作品が中古で高騰しているんだ。第二次ブームが起きている」
「岡崎くん、戦乱を終結させた功労者になっちゃったからなあ。とどめを刺したのはロトムくんらしいけど。お店に出すあみぐるみを作っている暇はないんじゃないかなあ」
「シーリン王女が特に可愛いものをお好きなので、時間が空いたときには作ってあげているようだ」
「そうなんだー。なんかいろいろあったけど、結局ギスリム国王陛下の一人勝ちっていう感じはあるよね」
「そうだな、それはある。あのお方は本当に悪賢い!」
こんな会話内容を市中の人に聞かれたら不敬罪を問われそうなものだったが、タモツと冴子はさっきから日本語で話していた。
「ギスリム陛下はシーリン王女をトラホルンの後継者として、サルヴァ王女をバルゴサの女王に据えるお考えらしい」
「トラホルンがバルゴサを併呑する、っていう形にはしないんだね。それをすると反感を買うからかな」
「あくまで二国は別々としつつも、将来的には連合王国という形にもっていくつもりかもしれないがな」
冴子は面白くなさそうに言った。
「バルゴサをあおる一方で新日本国を戦いに巻き込み、異世界自衛隊の力を使って敵を食い止め、アガシャー王を暗殺」
冴子はむすっとした顔のまま続けた。
「そこで、ここへ来てさらにバルゴサの王位継承権を掲げ、異世界自衛隊の戦車を魔晶石によって運用。さらには白魔導士の戒律にも手を入れようとしているらしい。やたらに敵を増やすことをされる方だが、やることは鮮やかの一言だ」
タモツはおおむね同意だったので、黙ってうなずいた。
「サエちゃんは、もしかして国王のこと嫌いなの?」
「以前はそうだったな。ただ、魅力的な人であることは確かだ。嫌いだが憎めないといったところか」
冴子はむすっとしたままそう言った。