01-12.元連隊長、帝都に入る2
カディールの帝都カディッサはオルラン川の両岸に広がる大陸一の大都市である。
カディール帝国の元首は魔帝ヴァレロン22世。自身も強力な魔導士であり、魔導士たちを束ねる長でもある。
カディールの歴史は古く、古代魔導国家の流れを汲んでいた。伝説によれば2000年以上も昔にカディッサの前身となる帝都ヴァレが築かれている。その後内乱や遷都などを経て現在のカディールの基礎が築かれた。
国自体の歴史は古いがカディールの歴代の魔帝たちは直系の血縁というわけではなく、王朝は何度も代替わりしている。
特に、魔導の素養に恵まれない者は帝位につくことが許されず、優れた魔導士が国を治めるべきであるという慣習があったため、それを理由に帝位の継承を争う内乱が起こることが度々あったのだった。
そのようなカディールの歴史を、タモツとヴィーツはイルマから聞いた。
イルマはカディール生活が長かったというが、勉強好きで博識で、ついでにいうと自分の持っている知識を誰かに披露することが大好きなたちであった。
「以上、イルマ大先生の歴史講義でしたーっ! ぱちぱちぱちぱち」
前世では日本の防衛大学校に入るほど勉強が得意だったタモツはイルマの話をいつも興味深く聞いていたが、ヴィーツは退屈してしまうのか、イルマの知識自慢が始まるときまってそれを揶揄した。
「なによ。あんたもカディールの血を引いているんだからこれくらい知っておくべきでしょ」
「俺はトラホルン人だからさー。血筋がどうだろうとトラホルン人なの、俺は」
「トラホルンはいい国だと思うよ。もちろん、カディールだっていい国なんだと思うけど」
タモツは極めて無難なとりなしを試みた。
「何と言ってもカディールには古い歴史があるし、トラホルン王家だって出自はカディール人なんだから」
イルマはどちらかというとカディールのほうに思い入れがあるようで、カディールの肩を持った。
「ちっ」
とヴィーツは面白くなさそうに舌打ちしたが、それでも馬車から見える帝都カディッサの大都市ぶりには目を見張っていた。
「すっ……げぇな。これが大陸一の大都市ってやつか」
「現在の人口は8万人以上とも言われている。過去最大の時には10万とも12万とも言われていたのよ」
イルマが自分自身の功績を誇るように言った。
王都ボルハンでは見かけない5階以上の高層建築物、洗練された石造りの建物、みやびに見える人々の衣服。
「ね? カディッサを見たらボルハンなんて田舎の街に見えるんじゃない?」
「そ、そんなこたねえよ。ボルハンにはボルハンのいいところがある!」
「なによ、それ?」
「か、紙芝居?」
イルマは「んー」、と考えた。タモツはてっきり馬鹿にするのかと思ったが。
「そうね。カディッサで紙芝居は見かけないかな。代わりに人形芝居が盛んだけど。時間があったら見に行きましょう」
とだけ言った。