06-17.元連隊長、ボルハンに帰還する
カディールの首都カディッサで4年を過ごし、タモツは今回の人生で11歳を迎えていた。
子供一人で護衛もつけずに馬車を御しているが、盗賊などにもし襲われても撃退する自信はあった。
カディール南部の丘陵地帯を通過するときには、4年前に山賊たちに襲われたときのことを思い出した。
まさかあの時の連中が今もここらを根城にしてはいないだろうな? とタモツは警戒したのだったが、襲撃は無かった。
タモツの馬車はディール山脈を西から迂回して、イェルベ駐屯地に近い側からトラホルン入りした。
戦乱が終結した今、東回りでイサへと入るルートを選んでも何の問題も無かったのだが、行きと同じルートを逆順でたどってみたのは単に思い出をたどるためだけだった。
荷物らしい荷物があったわけでもないので、なんなら馬車をどこかで売却して転送門を使ってしまっても良かったのだったが。
押井商会のキャラバンに便乗してカディールへと旅立ち、魔導学院に入学した4年前の出来事がついこないだのことのように思えてくる。
タモツはトラホルン領内に入ると、あとはどの駐屯地にも街にも立ち寄らず、まっすぐに王都ボルハンを目指した。
王都を取り囲む丘と丘の間を縫って城下町へたどり着いたころにはすっかり日も暮れていた。
こうして4年間の旅は無事に終わった。あとは国王に報告するだけだ。
タモツは手持ちのわずかな荷物だけをもって、馬車は王都の入り口にある馬屋に売却してしまった。
それから懐かしいボルハンの街並みを見ながら大通りを北に歩き、王宮を目指した。
ダラボアの店も、ドラゴン飯店も四年前と変わりなく繁盛しているように見えた。
こんなところにこんな店あったっけ? というような新しい店の姿も見えたが、前の店が何だったかを思い出そうとしても思い出せない。
4年という歳月の中で王都ボルハンも少しずつ、どこかが変わっているのだと感じられた。
かつてハジメ率いる特務隊が根城にしていたタラス砦を左手に見ながら、旧市街を王宮に向かって歩いていった。
タラス砦は、今では後継部隊である諜報隊という組織の所有になっているはずだった。
思い出のトゥーラン館にも立ち寄りたいところだったが、王都の西の外れに位置しているのでそれは後日でもいいだろう。
子供が実は嫌いだったという執事のポルトスは、今でも元気にしているのだろうか?
様々な物思いにふけりながら歩き続けて、タモツは王宮へとたどり着いた。