06-16.元連隊長、秘密を明かす
タモツとアストランは料理店に入り、奥の隅っこの席についた。
料理の注文は、アストランに適当なものを選んでもらった。
「で、どういうことなんだい? 君には軍人経験があるの?」
「信じてもらえるか分からないけれど単刀直入に言うよ。僕は<転生者>なんだ、アストラン」
「ああ、カディールでは半信半疑の人が多いけれど、噂には聞こえてくる。日本人という人たちの中には、バルゴサで信じられているように過去の人生の記憶を持ったまま赤ん坊として生まれてくる人がいるとか、なんとか」
「それは事実なんだアストラン。そのように転生して別世界からこの世界にやってくる人々の他に、転移と言って、肉体も年齢も記憶もそのままでこの世界にやってくる日本人もいる」
「そうなのか。なにしろカディールでは、遠い異国の怪奇現象くらいにしか思われていないからね。多くの庶民にとっては、別世界からやってきた人々の話なんてあまり深い興味の対象ではなかったよ」
アストランは言った。
「それでなんだけど、僕は別世界から転移してきて、60歳の老人としてこの世界で一生を終えたのちに、転生した人間なんだ」
「ええっ? そういう事例は初めて聞いたよ。じゃあ君は、その日本という別世界での人生、異世界転移から60まで生きた人生、生まれ変わってやり直した人生と、3度目の人生を生きているっていうことになるのかい?」
「そう……だね。そうとも言えると思う」
うーむ、とアストランはうなった。
アストランが適当に注文した、簡素な料理の品々と飲み物とが二人のテーブルに運ばれてきた。
「信じられない話だと思うかい?」
「率直に言えばそうだね。君が言うのでなければ信じなかったかもしれない」
アストランは料理に手を付けながら笑ってそう言った。
「それで、その前世で君は軍人として一生を終えたのかい?」
「そうなんだ。僕は別世界で指揮官をしていたんだけれど、この世界でも運よく出世出来て指揮官にまで出世しなおせたんだ」
「有能なんだね。そんな人が前世の経験と知識を持って子供からやり直しているなんて、とうてい僕になんか勝てっこないな」
「自分になにがしかの能力はあると信じたいよ。でも決して万能ではないからね。いろいろな人の助けを得てなんとかやってきた」
「そうか。じゃあ、僕にも何かできることがあったら是非言ってくれ。君には恩義がある。なんでも協力するよ!」
「ありがとう、アストラン。遠くに離れても君のことは忘れないよ」
タモツはそう言ってアストランと手を取り合った。
それから食事を済ませて、二人は店の前で別れた。