06-15.元連隊長、先輩と再会する
魔導学院のカリキュラムを全て習得し、沖沢タモツは学院を無事に卒業した。
卒業後の進路について故国に戻りたいということを伝えると、学院の教師たちは皆タモツとの別れを惜しんだ。
うるさ型で背の高い教頭のナーセル女史が、意外に人情家で涙もろいということを知ったりして、タモツもまた、教師たちとの別れに感慨を覚えていた。
ただ、それよりももっと、王都ボルハンに残したままの冴子に早く会いたかった。
上級魔導を独力で習得しているということは隠しておきたかったので、タモツは転送門の術のことには触れず、普通に馬車を買い上げて出立の準備を終えていた。
タモツが学院の門から路地に出たところで、
「タモツ!」
という若い男の声がしてタモツは馬車を止め振り返った。
「アストラン! 見送りに来てくれたのかい?」
「ああ。学院を退学になった身だけど別れのあいさつくらいはしたくてね、父に手を回してもらって君が卒業するときには知らせてもらえるようにしていたんだ」
「そうだったんだ。それはわざわざありがとう。会えて嬉しいよ」
アストランはタモツが入学した当初に世話を焼いてくれた先輩であった。学院で禁じられていたジッドという魔量の薬酒に手を出したとして退学処分になっていたが、あらゆる魔導を無効化するという特殊な体質の持ち主であった。
魔導をよくする家系に生まれて決して魔導士になれないというのは皮肉なことであったが、彼の父は息子の特異体質を生かせる道を探してくれると約束してくれた、とタモツは聞いていた。
「トラホルンに帰る道を選んだんだね。トラホルンというか、新日本共和国か。故郷で魔導士として仕官するのかい?」
「そうだね。僕はもともと軍人だったんだけれど、魔導の力を使って戦争に参加することは禁じられているというから、魔導の知識や力を生かすならば前線指揮官には戻れないな」
「え?? どういうこと? 君はその年齢で軍人だったのかい?」
「あっ……」
タモツは思わず口ごもった。
「往来で馬車を止めて長話をするのもなんだ、アストラン。良かったらどこかの店に入らないか? そこで詳しく説明するよ」
「構わないよタモツ。近くに僕の知っている店がある。朝早くから開いているし、馬車を止める場所もあるよ」
アストランはそう言って、タモツが御している馬車に乗り込んできた。そして、タモツに向かって道案内をした。
タモツの馬車は、アストランが知っている料理店のそばに停まった。