06-14.元連隊長、卒業報告をする
その夕刻、またいつもの通り沖沢タモツはトラホルン王国の首都ボルハンへと念話を飛ばし、ギスリム国王に報告をしていた。
(そうか、卒業という運びになったか。それはおめでとう)
(ありがとうございます。国王陛下が与えてくださった予備訓練のたまものかと存じます)
(タモツはもちろんのこと、ヴィーツとイルマの人選にも狂いはなかったな。過日の王都防衛任務で見せた連携もさすがであった)
(そのことなのですが、王都防衛に寄与するところが大きかった二人に、自由を与えてくださるわけにはまいりませんか?)
(ふむ……。考えておこう)
(ありがとうございます!)
タモツは喜んだ。この任務に就くにあたって、二人が何より、特にイルマが強く望んでいたのは王国に買い上げられた身分を買い戻すということだったからである。
(自由な身分になったとしても、二人の王国への忠誠は変わらないものと思います!)
(だと良いがな。それはさておき、卒業後の進路についてであるが……)
ギスリム国王は少しだけ考えて、念じた。
(タモツ、そなた一人で魔晶石を増強することは可能になったのだな? 術のことだけを考えるならばイルマが適任だが、戦車に魔晶石を組み込むにあたってはそなたの知識が必須となろう。そなた一人の身柄を新日本国に戻す。トラホルンとの共同研究によって異世界自衛隊の戦車を魔晶石で動かす取り組みに当たれ)
(はいっ。それでは沖沢タモツは卒業後の進路を故郷に帰るとして、帰還いたします。して、他の二人は?)
(カディールの中枢に入り込み、国情を探るという当初の計画を続行させる。念話の技術と連絡に関する注意点を二人によく仕込んでおけ)
(かしこまりました、国王陛下)
(面白くなってきたとは思わぬか、タモツよ? あのガラクタ同然だった鉄の塊が縦横無尽に大地を駆け巡り、それが新たな戦争への抑止力となるのだ)
(はいっ、そうであったら良いと思います!)
タモツは賛同した。
(それから、お前たちを導いてくれた錬金術師ライラスという男だが。もし本人が望むならトラホルンで雇い入れ、自由に錬金術の研究をさせてやってもよい。生まれはトラホルン人ということであるし、魔導学院の一講師よりは良い身分を保証するが)
(ありがとうございます。本人に伝えてみます)
念話は打ち切られ、タモツはライラスの研究室にいたイルマとヴィーツにことの経緯を話し、当初の予定通りカディールの国情を探る任務にあたるように伝えた。自由な身分を与えてもらうように嘆願したことについては、ぬか喜びをさせてしまうといけないので口にしなかった。
「それからライラス先生、トラホルン国王ギスリム陛下があなたに関心を示しておいでです。錬金術の研究者としてトラホルンで雇い入れる考えをお持ちだということなのですが、お考えいただけませんか?」
「ええっ!? そ、それはとても嬉しいお話だけど、ここの講師という生活に特に不満はないからなあ……。少し考えさせてもらうよ」
ライラスはそう言った。