06-12.元特務隊長、災害派遣の任につく
新日本共和国はバルゴサ王国への食糧支援任務を国際災害派遣として正式に閣議決定した。
トラホルン国王ギスリムはバルゴサ王国へ支援の用意があることを伝え、バルゴサ王国からは謹んで支援を受けたいという返答があった。
配布する食料はトラホルンの国庫から賄われ、それを異世界自衛隊が現地で配布するという流れである。
「異世界自衛隊初の海外任務、といったところか。まあ海の外ではないがな」
森本モトイ第2代大統領は、齢80を過ぎてもなお壮健であった。
「前大統領には負担をおかけするが、なにとぞよろしくお願いしたい」
森本大統領は、召喚した木下ハジメ1佐に向かって軽く頭を下げた。
「前大統領はやめてくれよ、森本さん」
ハジメは笑って言った。
「しかし、先の戦乱で先頭に立ってバルゴサ兵を殺した俺たちをよりにもよって派遣するっていうのは、大丈夫なのか?」
「この戦争を始めたのはバルゴサ側というのは周知の事実です。遺恨が残らないように早めに手を打つ必要があるかと」
「あえての人選ってわけですかい。こちらは迎え撃っただけと言っても、むこうはどうかなあ……」
「戦争を仕掛けてきた相手に対して人道支援をするというのは前代未聞の行為であるはず。すぐに感謝されるかは分かりませんが、こちらの誠意は伝わるものと信じております」
「まあ、それもこれも、あの王様がバルゴサの玉座に手を伸ばすための布石なんだろうけど」
ハジメは面白くなさそうに言った。
「<玉璽>だったっけ? そんな隠し玉を持っているとか、本当に油断ならねえお人だ」
「わたくしもそう思いますな。新日本共和国および異世界自衛隊はまんまと利用されてしまった」
「そんなこと言って、あんたもグルだったんだろ?」
「人聞きが悪いですな。トラホルンはいわば我々の宗主国的立場。現在のところ逆らうことはできません」
「いつかは属国から脱出できると思うかい?」
「さあて。まずは食料自給率を高めなければなりませんが、なにより転送されてくる自衛隊の武器をトラホルン側に接収されてしまえば異世界自衛隊が立ちゆきません。飛び領地として駐屯地を租借している以上、当面は難しいでしょうな」
森本モトイは新日本共和国の現在の在り方を性急に変えるという気はないようだった。
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1か月後、トラホルン王国と押井商会によって準備された食料満載の馬車を護衛しつつ、ハジメたち第5普通科連隊の隊員たちはイサを経由してバルゴサ領内へと入った。
配布する食料のほかに、現地に滞在する隊員たちの食料も必要だったから貨物の量は勢い膨らんだ。
他に野営のために必要な装備一式と、武器などもある。平和のための派遣とはいっても、盗賊などへの備えもしなくてはならないし、第5普通科連隊を恨む人間によるテロなどの可能性も考えられた。
第5普通科連隊は当初の計画通り国内の7か所の拠点を目指して散っていき、ハジメたちはバルゴサの北部、首都ヌーン・バルグを目指した。各隊にはオシイ商会の会員たちのほか、緊急連絡用にボルハンから派遣された白魔導士が随伴していた。