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06-10.大商人、帰国の途につく2

押井たちは6台の幌馬車を再編成し、ヌーン・バルグからイサへと進んだ。

イサはトラホルンとバルゴサの中継地点となる交易の要所であった。

街の規模はそれほど大きくないが、交易商人たちが滞在する宿や、馬車などを預かる施設なども存在している。

周辺にはほとんど魔物が出現しない。


これまでバルゴサに抑えられていたイサには、今ではトラホルンから派遣された兵士たちが駐留していた。

歴史上、トラホルンとバルゴサが領有権を主張して争ってきた紛争地帯であり、イサの街を治める議長は代々両面外交を強いられてきた。

竜王が滞在して殺された現場となった有名な宿屋は閉館しており、あたりには拭き取られた血の跡がまだうっすらと残っていた。


「あの岡崎さんが<竜王殺し>か……。人の行く末というのは分からないものだな」

それを言うならば王の婿になったということのほうが大事件だったのだが、押井にとって岡崎は優しい男という印象が強く、戦時の使命とはいえ暗殺者のようなことをしたというのが、なんだか信じられない気がしていた。


トラホルンであれバルゴサであれ、強い者には巻かれるというのがイサの精神であるらしく、バルゴサに肩入れしてトラホルン兵士に反感をあらわにするような人間は、少なくとも押井の見るかぎりでは見当たらなかった。

「なにやら腑抜けた街だ。やはり俺は好かない」

と、バルゴサのシャザームはイサに来るたびに同じことを口にしていた。

「まあ、生き残るための知恵なんじゃないかなあ」

押井も毎回同じようなことを繰り返していた。


イサで一泊したのち、押井たちは右手にダール森林地帯を見ながら南下して、トラホルンの丘陵地帯に入った。

遠方の丘の上にはバイアラン駐屯地が見える。そして、その手前には戦場になったと伝えられる細い道があった。

「なにやら死臭がするような気がするな」

「一万もの民兵が死んだというからな。死体の処理も大変だっただろう」

先頭の馬車である1号車で、押井はシャザームと言葉を交わした。


バイアラン駐屯地で連隊長をしているという木下ハジメに久しぶりに会ってみたかったが、王都に戻れと言う王命を第一に考えるなら寄り道はしないほうがいいだろう。

「さて、国王陛下から今度は何を命じられるんだろう?」

新日本共和国が設立する前に異世界自衛隊を除隊しているため、押井は理屈から言うと新日本国の国籍を持たない。この異世界で国籍という概念が明確に存在しているわけではないが、言ってみれば日系トラホルン人、とでもいうべき立場にある。

その意味で、押井の忠誠は今はギスリム国王に向けられていた。

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