01-11.元連隊長、帝都へ入る
「これが帝都カディッサ!」
タモツは幌馬車の後ろから顔を出してその威容を見おろしていた。
丘の下に広がる巨大な都市を左の眼下に見ながら、キャラバンは進んでいく。
聞くところによるとかつては10万もの人口を誇ったという。
トラホルンでは見たこともないような高層建築物の姿も散見された。
<オシイ商会>のキャラバンは丘からつづくなだらかな左回りの道をゆっくりと降りていった。
山賊との戦闘で2名の戦士を失ったのちは、小さな魔獣に何度か襲われたくらいで特に被害も出なかった。
魔導を使った戦闘の跡を消すために山賊の死体も林の奥に埋めてきたが、味方と同じような丁寧な弔いはしてやらなかった。
「自分の身を守るために戦っただけなんだから法には触れないだろ?」
とヴィーツは不満げに言ったが、タモツは首を横に振った。
「ヴィーツの火球は威力がありすぎるんだよ。あんなに派手にやらなくても良かったのに」
「仕方ないだろ。俺には才能がありすぎるんだから」
「火力をコントロールできないんだったらむしろ才能がないんじゃないの?」
と、イルマがすかさず嫌味を言い、ヴィーツは子供らしくふくれてみせた。
「ともかく、ここから先は魔導をまだ習得していないふりをしなくちゃならないんだからね」
「私は問題ないけど?」
「俺かよ問題は。努力はしてみるよ。いつ目覚めたふりをすればいいんだ?」
「火球なり燃焼の術を学んだ時に、それらしくびっくりしながら術式を発動させるようにしてくれ」
(ヴィーツが仮に10人いたら、500人の歩兵軍団をあっという間に壊滅させられるな……)
この少年にはたぐいまれな才能がある、とタモツは恐ろしく思った。そして、性格には粗野で攻撃的なところがある。
そういうところも若いころのハジメによく似ている、とタモツは友人を思い出した。
今や彼も新日本共和国の初代大統領か……。
<俺は王になる>と彼がタモツに宣言した18年前が懐かしく思い出されてくる。
王様とは少し違うが、とうとう彼は国家元首の座に上り詰めた。
(そういえば「俺の軍師になる気はないか?」って口説かれたんだっけな)
その時のタモツは異世界自衛隊の枠組みで出世して、再び連隊長の座に返り咲くことを夢見ていたのだった。
多くの魔物と戦い続けて武勲を上げ、前の人生ではその夢を果たすことができた。
それが今では転生して子供となり、ヴィーツ、イルマと共に今は異国の地カディールにいる。
(人生、何が起こるか分からないなあ)
タモツはぼんやりとそう思った。
やがて、キャラバンはカディール帝国の首都・カディッサの中に入っていった。