06-08.元特務隊長、戦後処理をする
それからしばらくの間、第5普通科連隊と第3普通科連隊の業務と言えば、バイアランの前方に折り重なった一万に近い数のバルゴサ民兵たちの遺体処理であった。
バルゴサもトラホルンも死者は土葬される習わしであったが、疫病の発生などを考えてハジメは遺体を焼くことを提案した。
バルゴサの方へはトラホルンを通じて、日本式で丁寧に埋葬されるということが伝えられた。
バイアランの東方に広がる丘陵の奥にキャンプファイアーで組むみたいに木材をいくつも組み、遺体の焼き場を開設した。
各駐屯地からかき集めた灯油も使ってみたが、全体量が少なくて思ったよりは助けにならなかった。
隊員たちはバイアランの前方から遺体処理場まで、二人一組で一体ずつ運搬をして、燃えさかる火の中にそれを放り込んだ。
焼き場の係が木くずを投入したりして火を見守った。
非常な手間にはなったが、日本式で丁寧に葬ると約束した手前、一体焼きあがるたびに火を一度消して、骨を取り出して葬った。
いずれにしても集団墓地に無名戦士の墓をたてて、そこにまとめて埋めるということにはなるのだったが。
遺体運搬もそれを燃やす作業も、骨を取り出して運び、埋め立てるという作業も、とうてい心楽しくなるような作業ではない。
ましてや、災害派遣などで遺族たちに寄り添うという立ち位置ではなく、自分たち自身が殺した人間たちの埋葬であった。
魔獣相手の戦いであれば危険や恐怖はあっても、このような気分の悪さはないものだ。
隊員たちは実によくやってくれている、と木下ハジメは現場を見回りながら思った。
「遺体処理作業、進捗状況は現在のところ80%と言ったところだそうです」
副官の持田がハジメに報告した。
「あと2日かからずに終わりそうです」
「そうか、わかった」
ハジメはうなずいた。
「異世界自衛隊初の人間相手の実戦は、味方の死傷者なしで終わったな」
「はい、連隊長。幸いでした」
「だがよ、俺たちは弾薬が尽きたら危なかったぜ。補給が安定しない以上、次はどうなるかわからねえ」
「はい。たしかにそうですね」
持田はうなずいた。
「あれ、丘の上に運んでは見たが結局こけおどしの役にも立たなかったな」
遠い南の丘の上に見える、3つの小山のようなものを指さしてハジメは言った。
「ああ、戦車ですね。竜騎兵がバイアランを迂回して南に回ったら、お披露目する予定だったそうです」
「え? あれ動いたの?」
「はあ。砲弾一発ずつは撃てると聞いていました」
「そうなんだ。へえー」
とハジメは言ったが、戦車砲一発撃って終わりかあ、とも思った。
「あいつが自由に動いたら、戦いも楽だったんだけどなあ……」
ハジメはそうつぶやいた。