06-07.元特務隊長、戦争の終結を見る5
「へ、陛下――!」
「ギスリム陛下、どうかそのようなことはなさらないでくださいっ!」
バルゴサの武将たちが慌てて口々に言った。
さきほどまで敵として戦っていた軍勢に対して「自分の味方になってくれ」と頭を下げて頼む王など、前代未聞であった。
(この人お得意の人心掌握術、キターっ!)
と、ハジメはあきれ半分、感嘆半分で後ろからギスリムの様子を見守っていた。
元々妾の子として王宮で不遇な扱いを受けていたと聞いたことがあるが、それゆえなのか、王族としてのプライドに凝り固まっているところがギスリムにはない。
ハジメのようなものとも気安く口をきくし、民衆を楽しませる催しをしてみたり、かと思えば冷徹な戦略を練って先の先を読んでいたりもする。
(本当、この人は油断のできない王様だぜ……)
「なにとぞ、頼むっ!!」
ギスリムはなおも頭を下げ続け、熱心に頼み込んだ。
「わ、分かりましたっ! このライジャールのギザーム、必ずや王陛下のお力になりましょう」
「わたくしめも微力ながら! カノホタのズィールにございます!」
「わたくしも!」
武将たちは次々と名乗り出て、ギスリムを取り囲んだ。
「おう、おう! そなたたち、異邦育ちの余を助けてくれると申すか!」
ギスリムはようやく顔を上げて、武将たち一人一人の肩をたたいて礼を言った。
(あーらまあ、みんなほだされちゃってまあ……)
ハジメは内心で苦笑していた。バルゴサ人というのはおおむね直情径行なようだが、情にもろいところがあるようだ。
そういう点では、おおむね親切なトラホルン人のほうがちょっとずるくて物事の裏を読むところがあるかもしれなかった。
(しかし、さっきまでの敵をまんまと味方につけてしまうというこの手腕。本当に恐ろしいぜ。この人とだけは敵対したくねえもんだな……)
協力を申し出た武将たちともう打ち解けあっているギスリムの姿を見つめながら、ハジメはそう思っていた。
こうしてバルゴサの将たちとギスリムの会見は終わった。主だった将たちが全員ギスリムを支持すると約束したが、それはほぼ自動的に配下の兵たちの支持も得られたということになるだろう。
「国王陛下も、大した役者ですねえ」
バイアラン駐屯地に戻る途中で、ハジメは思わずそう言った。
「ふん。頭を下げて涙を流して見せるだけで1万の将兵を味方につけることができるなら、何度でもやってみせよう」
ギスリムは面白くもなさそうに返した。