06-05.元特務隊長、戦争の終結を見る3
「もしかして森本モトイのじいさんもあんたの仲間か?」
「何を言う。すべての日本人はトラホルン人の仲間ではないか」
ギスリム国王は真顔でとぼけてみせた。
「新日本国建国も、アガシャーを挑発してトラホルンに攻め込ませたのも、すべてあんたの策略ってわけかよ?」
「買いかぶられては困る。余はそれほど全知全能ではない。ただ、時代の流れを読んだまでのこと」
ギスリムはそれっきり話を打ち切った。
護衛の魔導士として上級魔導士パバールだけを伴い、ギスリムは投降を表明したバルゴサ軍の元に向かって歩いていった。
異世界自衛隊の弾薬が築いた屍が折り重なり、血の匂いが渦巻くなか、その足取りは優美ともいえるほど落ち着いていた。
ハジメは複雑な気持ちでその背中を見つめていた。
が、唐突に、
「持田、俺も護衛として行ってくる。この戦争の完全な終結をこの目で見たいからな!」
と言って、ギスリムの背中を追って駆け出した。
「ちょ、ちょっと連隊長!」
持田の声が背中を追いかけてくるのに構わず、ハジメはギスリムに追いついた。
「ギスリム国王陛下! 俺も同行させてくれ。この流れ、個人的には気に入らねえところもたくさんあるが、時代が動く瞬間をこの目で確かめたい!」
「ふむ。よかろうハジメ。我が護衛として口をさしはさまずに後ろに立っているだけならな。ついてくるがいい」
ギスリムは薄い笑いを浮かべてハジメを見た。
歩いてくるのがギスリム国王その人だと知ったバルゴサ軍はざわめき、主だった武将たちが竜から降りてギスリムを出迎えた。
金色の鎧兜を身に着けたバルゴサの将たちは、左ひざと左拳を地面についてしゃがみ、頭を下げるというバルゴサ式の最敬礼をもってギスリムに対した。
「大儀である、バルゴサの武将たちよ。こたびの戦、そなたたちと本格的にぶつかり合う前に停戦出来たことを喜ばしく思う」
ギスリムは重々しい声色で言った。
「トラホルン、ならびに新日本共和国の連合軍は、敗北を認めたそなたたちを辱めるつもりは毛頭ない。食料を分け与えるゆえにそれぞれの故郷に帰るがいい。そなたらの身の安全は保証する」
「寛大なお言葉、ありがたく頂戴いたします」
最も位が高いと思われる武将が、腹の底に響くような声で返答した。
「ところで、そなたらに見てほしいものがあるのだ。一同、面を上げて立ちあがってくれ」
ギスリム国王は武将たちに向かって言った。