06-01.ギスリム国王、伝達する
アガシャー王打倒の報告は黒魔導士からギスリムのもとに届けられた。
ギスリムはすぐさま後詰めの槍兵3000に進軍命令を念話で命じ、続いてバイアランの前線に向かって魔導の目を飛ばした。
自衛隊側の指揮官である木下ハジメが物見台にいることを確認すると、ハジメに対してアガシャーの死を伝えた。
(アガシャー王に向けて、暗殺部隊を送り込んでいたんですかっ!?)
(暗殺というと聞こえが悪いが、その通りだ。ボルハンのロトムと岡崎チヒロの両名を指揮官として500の手勢でディール山脈を越えさせた)
(ディール山脈越え!? そいつはまた……)
ハジメは驚いていた。
(しかし、おかげで助かりましたよ。弾薬が尽きたらどうしたものかと思っていたところでした)
(白兵戦での切りあいになれば、自衛隊はバルゴサ軍に後れを取ったであろう。音に聞こえる竜戦士や竜騎兵どもを温存させたまま戦はこちらの勝ちになった)
(でも敵軍がアガシャー王に忠義を尽くして死に物狂いで戦うとなったらどうします?)
(それはないだろう。アガシャーは民草を力と恐怖で押さえつけていた王だ。死してのちにも忠義を尽くすほどのものは多くあるまい)
(敵にアガシャー王の死を伝えて降伏勧告をするんですかい?)
(後詰めの槍兵3000にその任をあらかじめ与えてある。バルゴサ語を話せる者たちを先頭に立てて降伏を呼びかけ、投降した者には食料を与えて身の安全を保証する。食料もすでに準備してある)
(じゃあ、あとちょっとこっちをもたせるだけか。後詰めが到着し次第こっちは射撃をやめればいいんですね?)
(ああ。そうしてくれ)
前線のハジメに対して必要なことは伝達した。あとは降伏勧告で敵を投降させるだけだった。
「ふうっ……」
おおむね状況は思い描いた通りになってくれた。
ギスリム国王は玉座に背を持たれかかった。
「国王陛下、戦乱終結のめどは付きましたの?」
第二王女サルヴァが小さな貴婦人という大人びた様子で、父王を案じるように尋ねた。
「おおむねはな、サルヴァ」
ギスリムは愛娘に向かって、少し疲れたような笑顔を見せた。
「ボルハンの上空に爆槍を落としてくる、というのはまるっきり読み切れなかった。タモツたちがいなかったらどうなっていたことか」
「何があるか分からないから、何があってもいいように備えておく」
サルヴァは優雅に笑って見せた。
「お父様の日ごろの口癖ではありませんか。<魔物殺し>たちをカディールに送り込んでいたことが功を奏したのでしょう」