05-20.格闘王、戦いの果て
気を失ったアガシャー王を床に転がして、戦士たちの一人に黒魔導士を呼びにやらせた。
そして、岡崎は切り裂いた布を使ってロトムの左下腿の止血をした。
ロトムはまだ納得がいかない様子だったが、岡崎はそれには構わなかった。
あのまま戦っていたら確実にロトムは負けていたし、戦いを長引かせれば無駄な死人が増えるだけなのは確かだった。
ロトム一人の名誉心のために、ロトム自身と他の多くの人々――敵も味方もだ――の命を失うわけにはいかなかった。
黒魔導士が駆けつけてくると、岡崎はギスリム国王との念話をつながせた。折り返し、国王自らが念話を通じて岡崎に心の声を送り込んできた。
(アガシャーの首は取ったか?)
(武器を奪って気絶させてあります。手足は縛っておきました)
(殺せっ!)
いつにない激しさで、ギスリム国王は思念を送ってきた。
(――し、しかし。生かしておいた方がバルゴサ国民の心証が良かったりはしませんか?)
(アガシャーはそういう使い方ができる駒ではない。今すぐに殺せ!)
ギスリムは繰り返した。
(何度も言わせるな、岡崎。これで最後だ。アガシャーは殺し、戦乱の終結を告げよ。そしてその首を王都に持ち帰るのだ)
(わかり、ました……)
岡崎は不承不承うなずいた。
「王陛下はなんと?」
「殺せ、とのことだ」
岡崎はロトムに向かって静かに言った。
「そうか」
ロトムは渋い顔でうなずいた。武人として抵抗できない人間の命をただ奪う、というのは戦いで命のやり取りをするのとは違う、抵抗感があるのだろう。
「お前がやってくれるか、ボルハンのロトム?」
岡崎はロトムの顔を見つめて言った。
「一対一の武人の戦いを邪魔したことは謝る。だが、王命が第一と思ってのことだ」
「……わかっている。俺ではアガシャー王には勝てなかった。たとえ魔剣が無くてもこの方は強い剣士だった」
ボルハンのロトムはしゃがみ込み、死体の上に転がっている魔剣ゲライオンを手に取った。
「この剣の切れ味なら、せめて苦しまずに死ねるだろう」
そして、すぐさま覚悟を決めたようにアガシャー王のそばに駆け寄り、
「御免っ!」
と一言叫んで青白く光る刃を主の胸に突き立てた。
その一瞬で、アガシャーは気を失ったまま絶命した。
「恐ろしい切れ味だ……。まるで吸い込まれるようだった」
アガシャーの左胸から剣を引き抜いて、ロトムは恐れをなしたように言った。
岡崎も黙って、その青白く光る血濡れの刃を見つめていた。