01-01.元連隊長、襲撃を受ける
前作 「転移転生自衛隊1 元連隊長は下剋上を目指す!」
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この世界には、異世界転移という現象がある。
そしてまた、異世界転生という現象もある。
しかし、その二つを両方経験した者は知られている限りただ一人しかいない。
その男は、名を沖沢タモツといった――。
「護衛隊、配置に着けっ! 全周を囲まれているぞっ!」
キャラバン隊を率いる押井三郎元自衛官は、南方のトラホルン国の言葉でそう叫んだ。
小柄な男だが商才に長けているほか、武術も語学もこなす。キャラバン隊から信頼される<オシイ商会>の主人であった。
キャラバン隊を編成する6台の馬車が密集隊形に固まり、押井に雇われた護衛の者たちが周囲を警戒しながら配置についた。
場所はラール大陸北西部のカディール帝国、その南部の山岳地帯であった。丘陵地に囲まれた凹地を通過する最中に先頭の馬車が異変に気付いて停止した。そして、6台すべてが停車することになってしまった。
前方に大きな両手武器を手にした山賊らしき男たちが数名道をふさいで立ち、左右の丘の上には弓矢を持った男たちが潜んでいた。
さらに後方からも、槍を持った男たちがいつの間にか湧いて出て退路を塞いでいた。
「どうするサブロウ! 賊はこちらの2倍はいるぞっ!」
護衛隊を率いる隊長の男が押井に向かって叫んだ。色の浅黒い細身の男である。名をバルゴサのシャザームという。
「交渉の余地はありそうか?」
「どうだろうな。トラホルン語かバルゴサ語が通じるかな……」
「私が交渉してみましょうか? カディール語は話せるわ」
馬車の一台から10歳をわずかに過ぎたくらいの少女が顔を出した。名をイルマ・ラティルといい、トラホルン人とカディール人の混血であった。栗色の髪と薄茶色の目をした美しい少女である。
「やるだけはやってみてくれ」
と、押井は少女に頼んだ。
しかし、それはまるっきり失敗であった。山賊たちは上玉の女児と見るや押井が護衛につけた二人の戦士を瞬く間に殴り殺し、イルマを捕まえにかかってきたのだ。
「イルマ、よけろっ!!」
押井の横にイルマよりもさらに幼い少年が飛び出して大声で叫んだ。
精神を集中させるために魔導の術式を編むと、少年は突き出した両掌から人間ほどもある大きさの火球を放出した。
「山賊ども! この魔導士ヴィーツ様が相手だっ!」
イルマが体をかわして軌道から外れたことを確認すると、ヴィーツと名乗った少年は怒りを込めて火球を男たちに向けて打ち出した。
「押井さん、シャザームさん、護衛隊を後方に固めてっ!」
ヴィーツよりさらに幼い少年が押井とシャザームに指図した。
この世界の人間ではない、押井と同じ日本人の子供であった。