6.謎少女との会話
6.謎少女との会話
しばらく謎少女の様子を見ていると、不意に少女がこちらを向いた。俺は咄嗟にしゃがみ茂みに隠れるも、彼女にはバレていたようだった。
「そこに居るのは分かっています。出てきなさい」
だが、俺は動かない。そのまま二分近くそうしていると、謎少女は両手をパンっと合わせて言った。
「ま、気のせいですよね。疑心暗鬼になりすぎでした」
予想外の言葉にきょとんとしてしまう。…これはどっちだ?気付かないフリして出て来るよう煽ってるのか?それとも本当に気付いてないだけなのか?そうして頭を抱えていると、謎少女は気楽そうな声で言った。
「さて。誰もいないようですし、もう一眠りしますか」
そして謎少女は切り株の上で横になったようだった。「誰もいないようですし」か…。思わせぶりだな。やはり気付いているのだろうか。俺は謎少女が動き出すまで様子を見ようと思ったのだが、少女はすぐに寝息を立て始めた。まさか本当に気付いていない…?しかも防御壁も張らずに眠るとは…
「いや、流石に警戒心無さすぎだろ!!」
思わず、大声で口に出してしまった。しまったと思ったがもう遅かった。その声で謎少女は起きたようで、飛び起きてこちらを向いた。
「なっ?!やっぱりいたんですね!!敵ですかッ!」
謎少女は、鉤爪のついた左手をこちらに向けてきた。完全に敵とみなされてしまった。もちろん違うので、否定する。
「違う!俺は、ただここに居ただけだ」
謎少女は真っ直ぐにこちらを見つめてくる。フードのせいで顔は見えないが、多分目が合っているだろう。
「…嘘はついてないようですね」
俺が嘘をついてないことをどう分かったのかは謎だが、誤解が解けたようでよかった。謎少女は鉤爪を仕舞い、こちらに向かって来る。俺は、気になっていたことを聞くことにした。
「お前、どうしてこんなところで寝てたんだ」
「…ここが一番安全ですから」
「あの防御壁といい、アッシュケルベロスを一撃で倒したといい…お前、見た目のわりに強いんだな」
「貴方こそ。気配を隠すのがお上手ですね。声を聞くまで気づきませんでした」
謎少女は、俺から1mほど離れたところで止まった。そして、そこから沈黙が続く。
それにしても……声といい、この喋り方といい、テルに酷似している。もしかしたら、テルなのではないだろうか。フードのせいで顔が見えないから、断定はできない。それならば、確かめてみよう。
「悪いが、顔を見せてくれないか?昔会ったような気がしてな」
「…それなら、人違いですよ。私、ここに来たの初めてですから」
「ここで会ったんじゃないかもしれない。俺は世界を旅してたからな」
「私は貴方のことを知りません」
上手くかわされた。どうしても、顔を見せたくないらしい。こうされると、余計顔が見たくなってきた。そしてある事を思いつき、実行することにした。俺は謎少女の後方を指差す。
「さっきから気になってたんだが、あれって何なんだろうな」
後方を見て油断している内にローブを剥がす!……まあ、こんな分かりやすいやり方で騙されるはずもないな。やけくそだったし。
「え、何ですか?」
彼女が振り返り、あるはずもない「あれ」を探している。予想外のことに面食らったが、願ってもないチャンスだ。俺は謎少女のローブ目掛けて手を伸ばす。
「あの、何も無いで、」
「悪いッ!!」
謝りながらも、振り向いた謎少女のローブを剥がす。そして、露わになった彼女の姿に驚いた。
テルの顔だった。髪は肩上くらいまでになっていたが、その顔はテルにそっくりだった。……のだが、ツノと尻尾が生えていた。斜め上に真っ直ぐに伸びた、金色の線が入った純白のツノに、同じく純白のしなった長い尻尾。そのことにも充分…いや、とても驚いたのだが、何より一番驚いたのは______________
彼女が、下着しか身につけていなかったこと。しかも、下だけだ。つまりは、なんというか、そういうことだ。腕の位置があれだったため、大部分は見えなかった。謎少女の顔が羞恥の色に染まった。
「なっ、何するんですかこの変態!!」
謎少女は俺の左頬に平手打ちをする。そしてローブを奪い返し、前を隠す。左頬が少し……とても痛むが、今はそれどころではなかった。
この少女は、テルなのだろうか。顔も、声も、喋り方も酷似している。だが、あのツノと尻尾は何だ…?あのツノの形は、恐らくドラゴンだ。だが、テルは人間だ。本人もそう言っていた。もちろんツノも尻尾も生えていなかった。じゃあ、テルは嘘をついていたのか。いや、そもそもこの少女がテルだと分かったわけじゃない。俺は、謎少女に尋ねようとしたのだが……
バタッと、謎少女が急に倒れた。突然のことに驚いたが、すぐさま駆け寄りしゃがみこむ。
「おい、大丈夫か?!!」
謎少女はしばらくの沈黙のあと、こう言った。
「お………お腹空いた……」
「面白かった!!」
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