5.謎少女との出会い
5.謎少女との出会い
昔のことに思いをつのらせていると、草原に着いた。
相変わらず、中央には大きな切り株がある。俺はそこに向かって歩いていく。
誰も立ち入らず、手入れもされていないせいか、膝下まで草が伸びていた。少し歩きにくさを感じたが、気にせず進んでいく。そして、切り株の何mか前まで来た途端、急に強力な魔力を感じた。それは、切り株の上から漂ってきていた。
「(こんな近くに来るまで気が付かなかった…?)」
俺は、常時マナディテクションを発動させている。これは、最大自身の半径3km以内のマナを持つものを察知できるというものだ。その中にはもちろん人間も含まれている。
いつもは魔力消費を抑えるために半径1km以内に設定しているが、大きいとは言えないこの草原で、しかもここまで近づくまで感知出来なかったというのはおかしかった。
俺は、その強力な魔力を発しているものの正体を確かめるべく、切り株の前まで近づき、跳び上がろうとする。が、それは叶わなかった。切り株の数歩前から先に進めなかったからだ。よく見ると、透明な壁が俺を阻んでいた。それは、魔法で作られた防御壁だった。恐らく、切り株の上のものが張ったものだろう。魔力反応が一致している。
とても強力な壁だ。並の者なら存在にすら気づかないほどの隠密性を持ちながらも、恐らく物理攻撃も魔法攻撃も通らない防御力もあるだろう。この壁を張った者は、相当の強さを持つ者だ。
魔力を発しているものの正体を確かめるべく、マジックリリースで壁を壊そうと考えたが、防御壁を張った者に気づかれるかもしれないことを考慮しやめることにする。俺は飛行魔法を使い上から確認することにした。
壁に触れぬよう高い位置まで飛び、徐々に切り株に近づいていく。天井の壁は意外と低い位置にあったため、切り株の上のものをよく見ることができた。切り株の上にあったのは……否、居たのは、人間だった。眠っているようだ。
その人間は、体型と身長からして少女だ。枯色のローブを身に纏っている。フードを深く被っており顔が見えず、人間と断定することは難しいが、足は見えているため人間でなくともエルフか獣人あたりかもしれない。だが、とりあえず今は人間だと考えることにした。そうすると、疑問が浮かんできた。
この少女はなぜこんなところで眠っているのか。モンスターに襲われぬよう防御壁を張っているのは分かるが、それなら宿屋に泊まった方が遥かに安全だ。町はそれほど遠いわけではないのに、なぜわざわざこんな場所で……。金がないのだろうか。それに、これほどまでの強力な魔力反応。一体少女は何者なのか……謎すぎる。
この疑問を解消しないと、今夜は眠れなさそうだ。だが、本人に聞かずして知ることはできない。
俺は、近くの茂みに隠れて様子を窺うことにした。
そうして待つこと、三時間。もう日はすっかり沈み、夜になった。
この間、特に変化は見られなかった。壁は依然張られたままだし、謎少女(これからそう呼ぶことにする)も眠ったままだった。もしかしたら、謎少女は眠っているのではなく、死んでいるのではないか______。
嫌な考えが頭をよぎったが、死んだ人間は魔法を使えないため、そうではないと分かり安心する。
こうしている間も、壁は消えないし、謎少女は眠ったままだ。もう時間も遅いし、諦めて帰ろうと思ったその時。
防御壁が無くなった反応がした。俺は勢いよく振り返り壁の有無を確認する。壁は、無くなっていた。もしかしたら謎少女が起きたのかもしれない。そう思って切り株の上を確認しようとするが、この位置からだとよく見えない。俺が切り株に近づこうとした瞬間のことだった。
右側から、謎少女とは違う強力な魔力を感知した。俺は足を止め、右側を魔法で拡大して見る。魔力を発しているものの正体は、アッシュケルベロスだった。
「(アッシュケルベロス…?!あいつは滅多に出現しないはずなのに…)」
頭が三つの、名前の通り灰色の犬。遠目から見ても、軽く10mは超えているだろう。アッシュケルベロスは、ゆっくりとこっちに…切り株に近づいてくる。そして切り株の100m以上前まで来ると、雄叫びをあげる。恐らく、謎少女を敵とみなしたのだろう。そして、三つの頭の口が開き、中央に黒い炎の塊が形成されていく。
「(マズい!!ファイアブレスか…!)」
謎少女は眠ったままで、この危機的状況に気づくはずもない。このままでは、謎少女は間違いなく攻撃を喰らう。俺は助けようと走り出そうとしたが、躊躇ってしまう。見ず知らずの少女を助ける義理は無い。だが、こんな状況で見捨てるなんてできない。そうして迷っていると、ファイアブレスが発動しかけているところだった。散々迷ったが、流石にこの状況で見て見ぬふりなどできるはずはない。俺は走り出したが、ファイアブレスが発動される方が早かった。炎は切り株ごと謎少女を呑み込んでいく。
ああ…間に合わなかった。俺が迷っていたせいで、あの少女は……
迷わず、すぐに助けに行けばよかった。そんな後悔に苛まれながら、俯いた顔を上げる。そして、その光景を目にした瞬間、目を見開いた。見開かずにはにはいられなかった。
炎が、謎少女と切り株を避けていた。いや、避けているというよりも、壁に当たって跳ね返っているかのようだった。だが、壁など無い。防御壁も、先刻無くなっていた。どういうことだ…?
「睡眠の邪魔をしないでください」
その言葉を発したのは、謎少女だった。いつの間にか起きており、切り株の上に立っていた。俺は更に目を見開く。その声が、思い出の少女…テルの声にそっくりだったから。
謎少女はしゃがむと、アッシュケルベロスの頭まで一気に飛び上がった。そして左腕を横に振り上げる。手の上にフック状のものが見えた。鉤爪だろうか。そして、謎少女の左腕は右に振り下げられた。
アッシュケルベロスは固まっている。一体何をしたというのか。そのわずか数秒後、アッシュケルベロスの三つの頭と体が真っ二つに切れた。一瞬理解が追いつかなかったが、謎少女がしたことだと理解し驚愕する。
「(アッシュケルベロスを一撃で?!)」
アッシュケルベロスは消滅していく。それを見て、謎少女は「これ消えるんですね…。死体処理が省けてラッキーです」と言っていた。モンスターは倒されると消滅することを知らなかったのだろうか。
強力な魔法を使え、こんなに強いのに、モンスターについては知らないとは……。
この少女への謎は、一層深まっていくばかりだった。
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