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4.突然の別れ

4.突然の別れ




 あれから、テルとはほぼ毎日会っていた。


 昼飯を食べるや否やすぐにあの草原に行き、テルに会う。それが習慣化していた。

毎日、俺が一方的に話し、質問しているにも関わらず、テルは嫌な顔ひとつせず聞き、答えてくれた。


 本来の目的であった昼寝はすっかり忘れていた。他愛ない話をし、たまには草原を走り回ったりしながら、日が沈みかけるまでテルと過ごす。そして、慌てて帰るも、親に怒られてしまう。だが、今はそれすらも慣れてしまっていた。

 

 今日は、いつもの待ち合わせ時間より、四時間も早く来ている。親に止められたが、弁当を持って飛び出してきた。こうまでして早く来たのは、テルに勝つためだ。

別に、勝負をしているわけではない。テルは、いつも俺より先に来ているものだから、少し対抗意識が芽生えただけだ。

 

 テルは、いつも切り株で昼寝をしている。そして俺が起こし、「待たせたな」と言うと、「全然待ってないですよ〜」と言う。


 俺は日増しに、三十分前、一時間前、一時間半前…と、少しずつ早めに来ているのだが、それでもテルの方が先に来ていた。もしかしたら、俺の意図を汲んで、テルも早めに来ているのかも知れない。まぁ、そんなわけないか。


 今日は、テルと出会ってちょうど一ヶ月経った日。俺はそれを記念して、テルを町に連れていくことにした。テルにはまだ言っていない。サプライズというやつだ。


「いつか、ハロルドの住む町に行ってみたいです」


 俺が町のことを話すたびに、テルはそう言っていた。

だから俺は、何日も前からこのサプライズを計画していた。初めて行くテルでも楽しめるような場所にし、移動も最短ルートを選び、テルが退屈にならないようにして、それから______


……なんだかデートコースを考えているみたいだ、と思った。

いやいやそんなわけないだろテルとは友達だ変なこと考えるな、と無理やりその考えを打ち消そうとしたが、やはり駄目だった。


 そうこうしているうちに、草原に着いた。暖かな風が頬を撫で、春を感じた。

俺は切り株まで一直線に走って行く。そして、少し前で止まり、そこから切り株に足音を立てぬよう近づく。テルを脅かしてやろうと思ったのだ。


 切り株の何歩か前まで来ると、跳び上がり切り株の上に着地する。


「どうだ?!驚い…」


 テルは居なかった。


 隠れているのかも知れないと思い、辺りを探すも見当たらなかった。どうやら、早く来すぎてしまったらしい。テルに勝てて嬉しいはずなのに、なぜか少し寂しくなってきた。その寂しさを無くすために、俺は弁当をかきこむと、昼寝をして待つことにした。



 だが、何時間待ってもテルは来なかった。

もうそろそろ帰らないと、日がすっかり沈んでしまう時間まで待ち続けても、テルは来なかった。

でも、ランプを持ったテルが来るかも知れない。そんな期待を胸に、俺は待ち続けた。


 しばらくすると、ランプと(おぼ)しき光が見えてきた。


「(テルだ!!)」


 俺はその光を目指して走って行く。向こうも走っている。俺は嬉々として速度を速める。

だが、近づくにつれ、ランプを持った人物がテルではないことが分かってきた。

それは、父だった。

テルでは無かったことに悲観しながら、怒られることを覚悟した。


「ハロルド!!どれだけ探したと思ってるんだ!心配したんだぞ…!!」


 そう言って父は俺を抱きしめた。予想外の反応に俺は面食らいながらも、それほどまでに時間が経っていたのだと実感した。


「さぁ、家に帰るぞ」


 俺は、父に手を引かれながら帰った。



 その後、俺は毎日草原に行ったが、テルが来ることはなかった。


遠くから来たと言っていたから、もう帰ってしまったのだろうか。それにしても、何も言わずに帰ってしまうなんてな……

俺は、そうではないと分かっていながらも、裏切られたような気持ちになってしまった。


 思えば、それがきっかけになって冒険者を目指したのだ。世界中を旅すれば、いつかまたテルに会えるかもしれない、と希望を抱いて。そしてあのチートスキルが発現し、俺は立派な冒険者になることができた。


 俺は、テルのことが好きだった。恋愛的な意味でだ。テルと一緒にいるだけで、声を聞くだけで、思うだけで、愛おしさが込み上げてくる。これが、恋というものなのだろう。

この恋心はもうとっくに無くなったと思っていたが、思い出したらまた込み上げてきた。

 

 会えないと分かっていながらも、テルに会いたいと思ってしまう。胸が苦しさで締め付けられた。












 


 






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