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3.ありし日の思い出

3.ありし日の思い出




 その日俺は、森に散歩に来ていた。そう、先刻(さっき)俺が素材集めをしていた、お気に入りスポットの森。

当時はまだダンジョンにはなっておらず、誰もが立ち入れる場所だったのだ。


 木の実をとりに来た人、木を切りに来た人、狩りをしに来た人など、さまざまな人々が行き交っている。しかし俺は、人々が行く方向と逆に歩いていた。

 

 こっち側は、ほとんど人が来ない。誰も居ず、静かすぎて不気味さすら漂うこの道を、俺は躊躇なく進んでいく。


 そして、ある場所で左に方向転換し、真っすぐ進んでいく。草が生い茂っており、服や靴に付くが、構わずにどんどん進んでいく。何分かそのまま進んでいると、草がなくなり、その先には小さな平たい草原が広がっていた。中央には、大きな切り株があり、俺はそこを目指して歩く。


 ここは、三週間ほど前に見つけた秘密の場所。俺は、恐らくまだ誰も来たことがないであろうこの草原の、切り株の上で昼寝をするのが好きになっていた。見つけてからは、ほぼ毎日昼寝をしに来ていた。

 

 今日も昼寝をしようと、切り株の上に上がると、そこには先客がいた。小さな少女だった。

俺は驚いた。この場所には、まだ誰も来ていないと思っていたのに、先客がいたことに。そして、その少女の美しさに。その少女は、とても気持ちよさそうに眠っている。


 ウェーブがかった、腰まで伸びた鮮やかな明るい金髪に、雪のように白い肌。白いワンピースを纏った体はとても小さく、儚げだった。


「(人形みたいだ…)」


 思わず見惚れていると、少女の目が開いた。少女はムクッと起き上がると、キョロキョロと辺りを見回す。そして、その空のように青い目で俺を視界に捉えると、目を合わせ見つめてきた。


「…誰ですか?」


「?!、わ」


 突然話しかけられたので、変な驚き方をしてしまった。

…人形だと思っていた少女が、喋った。そのことに驚いて、思わず言ってしまう。


「お前、喋るんだな…」


「…はい?」


 少女に怪訝そうな顔をされてしまった。俺は慌てて言葉を付け足す。


「いや、その……人形、だと思ってたから…」


 少女は目をぱちくりさせる。そして、笑いだした。


「人形、私が?…ふっ、あはははは!何を言うかと思えば…そんなわけないじゃないですか!!人間なんですから喋りますよ!あはははっ」


 少女は腹を抱えて笑う。今度はこっちが目をぱちくりさせる。そしてから、バツが悪そうに言う。


「その、何か悪いな…」


「別に、謝る必要ありませんよ〜!お人形みたいって言われて、結構嬉しかったですよ?」


 彼女は微笑んだ。笑顔がよく似合う人だな、と思った。


「ふー。久しぶりにこんなに笑った気がします。あー面白い面白い!!」


 また少女は笑いだす。ずっと笑っていてキリがなさそうなので、俺は話しかける。


「お前、いい加減笑うのやめろよ。腹痛くなるぞ」


「貴方が笑わせたんじゃないですか!…というか、お前じゃなくて私テルです!!貴方は?」


「……ハロルドだ」


 俺は名乗るのに一瞬戸惑った。得体の知れないやつに名前を教えるのには抵抗があったからだ。だが、テルの笑顔を見ていたらそんな気持ちは無くなった。


「ハロルド!よろしくお願いしますね!!」


「こっちこそ、よろしくな!…ところでお前、何歳?俺は10歳だけど」


「歳ですか…ええっと換算すると…そうですね…10歳…いえ9歳です!」


 言葉の端々におかしな点が見受けられたが、俺は気づかないフリをして会話を続ける。


「そうか。じゃあ、どこから来たんだ?この近くの人間じゃないよな…?」


「え、と……ド…ええと…国外!国外から来ました!!」


 国外から来たと聞いて、見ない顔だということに納得する。

テルがなぜ焦りながら言っていたのかは、よく分からなかったが。


 その後俺は、テルに色々な質問をしたり、雑談をしたりして過ごした。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「あっ!もうこんな時間!!」


もう、日が沈みかけていた。俺は、昼寝なんか忘れて雑談に(ふけ)っていたらしい。


「早く帰らないとお父さんに怒られちゃう…!」


「お、俺も…」


 俺の父親は、怒ると怖い。その姿を想像して、身震いする。


「私、もう帰らないと!今日は楽しかったです!!ではまた!」


 テルは切り株から飛び降り、走りだす。

俺も後に続くように、切り株から飛び降り、テルが走っていった逆の方向に走りだす。少し経って止まり、振り返ると、まだテルの姿が見えた。俺は、テルに向かって叫ぶ。


「おーーい!!また明日も、会えるかーーー?!」


 テルも止まり、振り返って返答する。


「はーーーい!!また、明日、ここでーー!」


 テルの返答を聞き、俺は走りだす。

…明日もまた、テルに会える。話せる。

そう思うと、胸がワクワクでいっぱいになった。俺は、嬉しくなって走るスピードを速めた。


…だが、家に帰った時にはもうすっかり日が沈んでいた。


母親に心配され、父親にこっぴどく叱られたのは、言うまでもない。













 





 


 


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