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ヴァルハラ・シンドローム  作者: 織原 直
ヴァルキリー覚醒編
17/94

イグニスの実力

その強さが本物であるならば、わたくしとパートナーになっていただきたいのです。

 簡単なお話だと思いませんこと?」


「実力が見たい? 結局はケンカうってんじゃないの!

 ここで力比べでもしようっての?」


「あなたは本当に頭に血が上りやすいですね。

 ヴァルキリーになったばかりなら、色々不慣れなことも多いでしょう?

 わたくしはあなたよりもずっと前からヴァルキリーを名乗っているのですけど、正直一人ではつらいことが多いですもの、パートナーがほしいと思っても不思議じゃなくって?


 CNTRYからの刺客――彼等はありとあらゆる方法で私達を狩るつもりですわよ。


 あなたも柄の悪い連中を相手にしましたでしょう? あの方達はわたくし達の力を研究しようとか、そんなことばかり考えているらしいですわ。


 まあ、あのような者達などは序の口で、他のヴァリキリーから襲撃されたことも何度もありましてよ。 みな返り討ちにしてやりましたけどね。


 でも、だんだん一人でできることに限界を感じてきましたの。

 そこでパートナーを見つけようと思ったのですわ。


 そしてその候補としてあなた白羽の矢がたった。

 ヴァルキリーに成り立てで多少頼りないですけど、潜在能力は高そうにおみうけしますわね。


 立場の近い者同士の方がわたくしとしてもやりやすいと思いましてね。

 シルフィード、いえ、三奈坂七瀬さん。 あなたはわたくしが本名を知っている理由にも薄々感づいていらしゃるのでしょう?


 わたくし達はこう見えても似たような境遇にあるんですのよ。


 だから、あなたの力を試したい。 そして協力してほしいと考えていますの。

 わかるかしら? わたくしはあなたに協力をお願いしていますの」


「言いたいことは分かったわ。 じゃあ、公平にあなたも名乗ったらどうなのイグニスさん? 私だけ正体がバレているんじゃ、信用なんかできないわね。

あなたはそう思わないの? それが人に者をお願いする態度かってね」


「言いましたでしょう。 あなたの実力が本物であればって。 本物ならばそれなりの敬意を。


 そうですわね。 まずわたくしに膝を付かせることができれば、あなたにわたくしの本当の名前を教えてさし上げてもよろしくてよ」


「おかしいわね。 あなたの言っていることは、ここで勝負しようと聞こえるんだけど。

さっきは戦う気はないと言っていなかった?

 それともあれは私の聞き違いだったのかしら?」


「ええ、どうとってもらっても結構ですわ。

 あなたが実力を見せてくれるのであれば……でもここで戦っても、今のあなたでは勝負と呼べるものにはなりませんわよ。


 成り立てのヴァリキリーさん、あなたはまだまだ未熟すぎますわ。

 相手になんてなりませんわよ。 そんな戦いを勝負なんて呼べないませんでしょう?

 一方的な殺戮、そうなるといっているのです。 あなたはそう思わないのでして?」


 なんか酷く舐められているわね。 確かにイグニスにはとても勝てそうもない。

 属性付随攻撃の取得以前の問題で、私には戦闘経験がほとんどないし、変身も二回目、この身体にも慣れていない。 でも、それでも譲れない者があるって思う。

 ここまで舐められて引き下がれるものですか。


「そうね、でも、やってみなくちゃ分からない事もあるわよ!」

 結局のところ、私にだってプライドというものがある。


 こうもバカにされて、はいそうですか、などと認めてしまえるほどシンプルにはできていない。 馬鹿にするのもいい加減にしろよ! といったところなわけね。


「勇気がおありですのね。 無謀と言い換えるべきかしら、もちろん受けて立ちますわよ」

 対するイグニスは余裕の表情を崩さない。 その余裕、優雅さがカンに障る。


 格下相手に何を焦る必要などありまして、といった感じだ。 全く以て腹が立つ。


 銀閃が閃く! 先手必勝――腕に装着されたサバイバルナイフを抜刀し切りつける。

 意表を突いた奇襲攻撃だ。


「もらった――!」


「――甘いですわね」


 イグニスは徒手空拳―――相手が槍を召還するよりも早い最短の動作で振り抜く。

 もっとも事前の会話で、私からの殺意を感じ取っていたイグニスもそれを読んでいたらしく、不意打ちは、不発に終わる。 簡単にダメージを与えることはできない。 


 二度三度と閃く銀光、ナイフの斬撃はそれが当然であるかのように空しく空を切る。

 半ば必中の気合いとともに放った斬撃を躱された。 だが、止まらない。


 もう一方の手でサブマシンガンを召還、イグニスもほぼ同時に槍を召還している。

 黒鉄の銃口と深紅の槍が交差する。 狙うは互いに頭――人体としての急所。

 得物ごしに、刹那の視線が交錯する。

 ――引き金を引き絞る。


 狙いなどろくにつけずに銃をフルオートで乱射する――この距離ならば精密な狙いなど必要ない。 だが、ヴァルキリーとしての反射神経を持つイグニスはことごとく弾丸を避け、または弾く。


 その間にもナイフでの波状攻撃を繰り出す。 超高速で展開される攻防をうけて しかし、イグニスは――


 でたらめな射撃と斬撃、近接戦闘において銃器では不利だが、それをナイフの斬撃がカバーする。

 片手で扱っている短機関銃が反動で暴れ狂うが、ヴァルキリーとしての強靱な腕力でそれを制する。


 対するイグニスは一本の槍――二メートルを超える長ものであり、部屋の中で振り回すことができないはずだ。 よって薙刀のような斬撃は無視していい。


 この屋内であの得物は刺突以外の攻撃方法をとることはほぼ不可能であるはずだ。

 あれだけの長柄、引き戻しが隙を生む。 長いリーチは懐に入ってしまえば恐れるに足らず。


 屋内での近接戦闘―――現状において必要以上の長物を得物とするイグニスに勝機はない。


「くっ――! 思った以上にやりますわね」


「フフン、その上品な顔を苦痛にゆがませてやるわ!」


「できますかしらね、それがあなたに」


 流石のイグニスも自身の不利を目の当たりにしてうめきを漏らす。

 黒鉄の銃器が咆哮を上げる。 なおも追撃し、近距離から短機関銃を乱射しながら、ナイフで切り結ぶ。 沸騰した脳内が灼熱をもって、わめく!


「うああああああ―――!」


 優位を確信した戦闘本能がアドレナリンを極限まで分泌し、私をなおも追い立てる。


 だが、この状況下においてもイグニスの力は健在だった。

 優劣を決めるのは何も状況だけではないということだ。


 イグニスのヴァルキリーとしての戦闘経験はことにいたっても揺るがない。 絶対的不利な状況にありながら、冷静に私の攻撃を受け流していく。


 最初のうちこそ私の優勢に推移した戦闘も、次第に逆転する。

 間合いを離される。 槍の間合いを取られてしまえば、私のナイフは届かない。


 短機関銃は絶えず鉛の弾丸を吐き出し続けているが、それもヴァルキリーとしての反応速度を前にしては決め手にはならない。 ゼロ距離からの直接射撃でなければ、イグニスを捉えるにはいたらない。


 ヴァルキリーが武器を選択する上で、振り分けられるキャパシティポイントは近距離武装の方がより多くを消費するという。


 常人を遙かに凌駕する動体視力下では、銃器による、遠距離攻撃は見切ることが可能だ。

 普通に射撃したところで、そうそう当たるものではない。


 それゆえに多くのヴァルキリーは近接武装に多くのキャパシティポイントを振り分ける。


 銃器をメインウェポンとしてそれも比較的小型の銃器選んだ私には、予め登録しておいたサブウェポン―――ナイフを瞬時に召還、もしくは常に持ち歩ける。


 イグニスはキャパシティポイントのほとんど全てをあの長槍に当てているために、他の武器を召還することができない。 手数においては現状私が上回っている。


 故に勝利を確信していた。 だが、既にイグニスの後退は成功している。

 現在私達の間合いは二メートル、イグニスの必殺距離であり。 短機関銃の弾速では相手に見切られてしまう距離だ。

 

 先程までの高揚感が疲弊し、自然と呼吸が乱れる。 身体が急激な肉体駆動による酸欠で喘ぎ、汗がぽつぽつと流れる。 流れる滴は恐怖によるものか?

 

 体温の調節機能か、自分でも判断がつかない。 ただ自分が焦っていることは分かる。 既にアドバンテージはイグニスが握っている。


 早期に決着をつけられなかった以上、もはやつけいる隙はない。

 長期戦になるほど、戦闘経験において勝るイグニス対して後手に回ってしまう。

 勝利するためには短期決戦でなければならなかった。


 初手で優勢であったのなら、なおさらだ。 意表突い以上、一撃必殺出なければならなかったのだ。


「ふふふ、なかなかやりますわね。 特に初撃には肝を冷やしましたわ。

 賞賛に値しますわ。 ですがそれももう終わり、間合いで有利に立っているわたくしに、あなたでは適いません。 それはあなた自身が一番分かっていることではなくて?」


「うるさい、それでもやってみなければ分からないでしょうがっ!」

 図星をつかれた私は、弾丸をばらまきながら突進する―――紅にたなびく炎の鎧が幾重にも断層を作り上げ、まるで紅い着物のように乱舞する。

 暴れ狂う炎の舞は降り注ぐ弾丸を溶かしていく。

 だが、それでも諦めない。 多少のやけどなど無視し、炎に突っ込みナイフを突き立てる。

 ――が、相手も馬鹿ではない。 槍による反撃がすでに私を捉えていた。


 それとて馬鹿正直な突き攻撃に限定されているこの場合は見切ることができる。 まさに紙一重だが、肩口をかする穂先が灼熱の痛みを伴って肌を焦がす。


 致命傷ではない。 同時に私のナイフもイグニスの腕をかするめる。

 相手が槍を引き戻すより早く、短機関銃を消滅させると、即座にもう一本のナイフを交錯させる。 十時の軌跡を描く、二連撃――持ち札で最速をもつであろう――特効、その様は流星のごとく駆け抜ける。


「接近戦ならナイフの方が早い!――ガッ!」


 必中の連撃が命中するより早く、イグニスが繰り出した見事な蹴りが私を吹っ飛ばした。 槍にばかり気をとられていて、意識が足に向いていなかった。 体術をまともに喰らっていた。


「いけませんわ、足がお留守でしたわよ。それではダンサーにはなれませんことよ。


 私の攻撃は槍だけではありませんわよ、敵の武器にばかり気をとられるとは、素人としての限界ですわね。 経験の差がでましたわね」


 蹴りは強靱な体力を誇るヴァルキリー同士では決めてにはならないが、再び間合いを離されてしまった。 必中の距離、いや痛恨の距離か、イグニスが槍を構える。


「いでよ我を守る贖罪の業火よ! 愚かなる魔女を焼き払え、唸れ業火よ!(精霊の業火)」


 短い詠唱と現れる灼熱の火球が、あらゆる物を浄化する赤熱の業火、一直線にこちらへ突き進む。 強大な直径を持つそれは、だが、速度でも私の銃弾を上回る。


「――っく、身体よ駆動せよ、動け限界を超えて、風よ凪げ――エアリアルドライブ!」


 それっぽいことを言いながら回避――豪奢にフリルをあしらったフレアスカートが突風を吐き出す。

 

 それを燃料とし、私の身体が限界を超えてダッシュ――緑の尾をたなびかせ、四肢が限界を超えて駆動する。 火球を回避し、同時に短機関銃を召還、フルオートで乱射し反撃する。


 カウンター、ここだ! 火球攻撃中ならば、弾丸を炎で防がれることはない。

 ――とはいっても間合いは部屋の端から端、三メートルを超える。

 当然イグニスには私の弾丸など余裕で見切れるだろう。


 だが、あれだけの大技を使えば、硬直時間が発生するはず――吐き出される鉄塊が見事にイグニスの身体に命中する。


 イグニスがうめくが、だが、それでも致命傷にはいたらない。 どうしろっていうのよ、こんな化け物。しかし、ネガティブな感情に浸っているような時間はない。


 こちらは二度三度と打ち出されれる火球をよけるのに精一杯だ。 こうなると逆に狭い室内が恨めしい。 何とか距離をとり部屋の壁へと隠れる。


 しかし、炎は薄い壁などもろともせず焼き尽くす。 避けきれなかった炎の余波を受け、身体は吹き飛び、数えきれないほどの火傷が刻まれる。


「やはり、まだその程度ですのね。 その程度ではわたくしのパートナーとしてほど遠いですわよ。 悔しければ反撃の一つもしてみなさいな」


 ひときわ大きな火球が槍の穂先へと集中していく。


「――チェックメイト! ここまでですわ、一度でも私に触れたこと、たたえましてよ」


「まだ、よ、まだ……勝負は…最後まで……分からないものよ」


  戦闘の高揚感だけが気を大きくして、強気な言葉を口から紡ぎ出す。

 言葉とは裏腹に息は乱れ、体中の熱で平衡感覚がおかしい。


 戦闘意欲は衰えず、それが私の身体に鞭を打つ。

 だが、対して体はもうボロボロで、満足に言うことを聞かない。


 最後の力で銃口をイグニスにポイントする。 だがそれまでだ。

 次にイグニスが火球を放てば、その業火は弾丸ごと私を焼き尽くすだろう。


 ヴァルキリーの耐久力を持ってすれば一撃で昇天することはないのかもしれないけど、その後の結果は目に見えている。 どうやっても逃れられない仮想での死だ。


 私は覚悟を決めた。 たとえ死んでも一矢報いてやる。

第二戦後半部分ですね。 まだちょっとありますが。やっぱりちょっと長めになったので二回に分けないと無理でしたね。

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