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ああもうまじ最悪。



俺は甘ったるい匂いが充満する部屋で顔をしかめた。

香水ぶちまけるとかありえない。


しかもそれがファンクラブの生徒やガタイのいい生徒が好むような、持っている香水の中でも一番甘い香の香水だったものだから堪らない。



頭がクラクラとする。



「しばらく部屋使えねー…」


(臭すぎ…うえっ吐きそう。)


瓶の中を殆どぶちまけたのだ、仕方ない。

その匂いがまとわりついてくるため香水をつける必要がもうなくなった。


部屋を出て壁に寄り掛かりながら歩く。自分の匂いに酔っているというある意味器用な事をしているわけだが…。



「哲平が帰ってきた時全裸で哲平のベッドに潜りこんでおこうかな」


ばっと布団をめくった瞬間俺が全裸で寝ているっていうね。


(…間違いなく殺られるよな…いやヤられるじゃなくて殺られるよね。)


仕方ない、当分はリビングで寝よう。ファブリーズで匂いがとれたらいいけど…。


期待はできない。


よろよろとおぼつかない足どりで廊下を歩く。


曲がり角を曲がろうとした時、聞こえてきた声に足を止めた。


壁に寄り掛かりながらちらりと顔をだす。


「あっあのっ本当にありがとうございました!!!」


「いや、かまわないよ」


「あっあのっまた…」


「ああ、そのうちに」


(ありゃたしか……あーあーあー俺しーらね。)


ちらりと見えた二人の生徒。

ドアにかけられたテンプレには…。



「桐島様っ僕でお役に立てる事があればなんでも言って下さい!!」



風紀委員室。


小柄な生徒はたしか生徒会長のファンの一人だ。

春野の取り巻きの一人だった気がする。



(会長のファンが風紀にあんな甘い顔しちゃならんだろうに…。)


なにせ生徒会と風紀委員会の仲の悪さは半端ない。それをお互いのファンクラブ会長が見逃すわけもなく、会長同士も険悪なのだから会員も必然的にそうなる場合がある。


(イカレ野郎にばれてキツイお灸据えられてもしーらね。)



それは暗黙の了解だ。

生徒会長のファンクラブと風紀委員長のファンクラブは互いの崇拝する相手に近づかない事。


「本当にありがとうございました!!!」


「いいえ」


綺麗な笑顔を浮かべたまま桐島は小柄な生徒に緩く手を振った。


――カツン…。


桐島は踵を帰すと同時に笑みを消した。


「それで、貴様はそこで何

をしている」


あ、やべ。

足音が近づいてくる。

バクバクと音を立てる心臓。


「さっさと出てきたらどうだ」


抑揚のない声に呼びかけられて俺は心臓が跳ね上がるのを感じた。


いちいち威圧的すぎる。


(つかここで素直に出るってのもありえない。でも出ないってのも…よし。)


無視しよう。


一番無難なライフカードを選んだ俺は壁にへばり付きながら様子見に少し覗いてみた。


「………チッ…」


いつまでも待っても出てこない人物に痺れを切らした桐島は歩みを早める。


桐島意外に短気!

カツカツと音を鳴らしながら明らかに足早になった桐島。

壁にへばり付いている姿を見られるよりましだろう、と俺は思い切って飛び出しそのまま腰を折った。


「ごごごめんなさい!!たまたま通りかかってしまってっっやましい事なんて考えてないんですけどっっほっ本当ごめんなさい!!」



突然飛び出した俺に桐島は逆に固まった。

俺は嘘はついてない。

ついてないぞ。言い方を変えただけで嘘は言っちゃいない。


綺麗な上靴を見つめながらひたすら謝る。


「…また貴様か」


「…ご、ごめんなさい」


俺だって会いたくて会ってるわけじゃないし?むしろ会いたくなんかないっつーか?とにかく不本意だってことよ。俺が行く先にあんたが居るんですよと言いたい。


「…まぁいい茶でも入れてやろう。中に入れ」


ガチャリと開かれたドアの合間から見えた風紀委員室は一言で言えば「普通」だった。



いやいやは?


思わず曝してしまう間抜け面。

中途半端にあげた腰が僅かに悲鳴をあげた。


「え…や…僕のような一般生徒が風紀委員室に入るわけにはい」


「言いから黙って入れ」


ぐいっと掴まれた腕に引かれて中に足を踏み入れる。


(お…おおおう?これは予想外って…ゆか…うん。)


質素な作りの部屋に無理矢理押し込まれた。

……ありえない。


生徒会室に入る以上にありえない。俺が戸惑いながら出ようと振り向いた瞬間だった。



――ドンッ!



「う、わっ!?」


突然突き飛ばす、というより押し倒された小豆の身体を包んだものは柔らかいものだった。

衝撃に備えて強くつむった瞼をうっすらと開く。


「……え…っと…桐島様?」


ギシ、と重みで軋む音。


「なんだ」


俺を優しくキャッチしてくれたもの。


じんわりと手の平に滲む汗をささやかな仕返しとしてシーツになすりつけてやった。


「何故僕は……ソファに居るんですか…ね?」


桐島のさらりとした髪が揺れた。


「さぁ、貴様の時間をしばらく頂こうか?猫田小豆」


眼を細めながらほくそ笑む桐島に頭の中で警報が鳴り響いた。


あれ…俺…危ない?

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